一切は失われた。
不倫の果てに何もかもを失う惨劇が、猫に食い破られた燕の巣と対比して語られていく。 読後に思わず黒百合の花言葉を調べてしまいました。復讐と呪いと、そんな黒々とした怨念が被せられた燕の巣を思うとゾッとします。 やるせない恋の終わりに、なんて不毛な年月を重ねてしまったのかと虚しさと怒りに震える主人公。 彼の言葉を信じてきたのに、それが口先だけのものと知っては嫌味のひとつも言いたくなるのが人情というもの。それを「意地悪だ」などと言って論点をすり替え、別れを切り出すとは狡い男です。 悲劇の燕のヒナのように、きっと彼女のお腹の子も醜いエゴに食い荒されて、光を見ることはないのでしょう。 一切は失われた。それをラストのクロユリが象徴しているように感じました。
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