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旧:感情ミュート
トコダ トコ(旧・床田とこ)
2022/2/4 20:27
ならいめとさかめ
その秀逸な題名から、いつか読みたい作品だとずっと思っていた長編。各所で様々評価され、読まれた方々からは漏れなく絶賛されてきたこの作品、私も時間をかけじっくり読ませていただきました。結果から言うと、さいこう。 筆圧を感じるくらいの作者様の思いの見える冒頭から序盤は、感情をそのまま乗せたような迫り方で切なさを浴びました。でも、それは吐き出されるようなものではなく、ぱんぱんに膨らみそれでも外に漏れないミュートが掛けられ、その重みのまま落とされたようなイメージ。締め付けられるような描写と心の叫びは、最終盤の紐解かれる壮大な心情伏線であり、おそらくこの要素が最高の読後感に繋がったと思います。 絶妙にキャラ立ちした登場人物達が作中で躍動する青春物語ですが、その空気感は常に穏やかで優しさがあります。数々の苦難に怯み悩み、挑み立ち向かう。若者がそうなるプロセスに自然な友情と愛情が寄り添っていて、中盤以降の事件や出来事はまさに「荒波」ですがそれを皆で乗り越えていきました。 恋愛要素は女の子大好きなスウィートさですが、切ない系高校生らしいエピソードは悶絶もので、きゅんが辛かったですw 男子達のイケメン具合はもうごめんなさい、私の脳内では変換され感情移入半端ないですw 細かいところでは、溢れるご当地愛と絶品食リポを読んでいるような楽しさが潜り込んでいて、あー函館行ってみたーいと思ってしまいました。方言の味もあり、なんて可愛いんだろう、と。 技術的なところもレベル高いと思いますが、描写も無理ない軽さで文体も読みやすく、「読み疲れ」しないところも個人的には好きです。私みたいな性格の読み手には、長編ならここらへんもポイントかも。オススメのしやすさもある小説です。 構成は、のんびり作られた幸せな場面と、引っ掛かりある場面のあっさりさを巧みに編んでいると感じました。紙や縫い物、木材や芝生でよく言う「順目」と「逆目」で例えるなら、「順目」は長く「逆目」は短く組んで後回しにしています。その「逆目」の部分の全ては終盤の「解明編」でならしていて、なのでラストまでの50ページはもう止まらず読後まで感動を引き摺っています。 私が小説を読むにあたり重要視する「序盤の描き方」と「読後感」は満点を付けたい作品。題名からの興味でもいいです。沢山の方に読まれてほしい小説だと思いました。
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