熟成みかん

三途の川があるとするならばこの小説の中にある。
解説 「死にたい」と思ったことのある人はいったいどれほど日本にいるのだろう。思わずここから消えて無くなりたいと思う衝動に駆られるような経験は多くの人に覚えがあるだろう。 命を精一杯燃やし、力強く輝いて生きている人ほど同じくらい深い死の影が心を蝕んでいくものだと思う。力強く生きていたがために命の蝋燭を燃やし尽くし自ら死を選んでしまう人がこの世にいる。それはとても悲しいことだ。 そんな中でまだ命の灯火を残しながらふとした瞬間に死神に手を取られてしまう人というのも存在すると私は思う。 そんな死神に魅入られてしまった2人の物語がここにあると感じた。 書評。 プロローグ 違和感なし。多すぎず。少なすぎず。 序章 「死んでみよっか。」 と切り出す伊世の雰囲気が非常にリアル。 あの世との距離が近い人のふわっと突発的に日常に死が潜んいる雰囲気がひしひしと伝わりました。そこに至るまでの小さなストレスが積み重なってしまっている描写も非常に繊細で素晴らしい。 側からみたら「そんなことで?」という具合がまたリアル 物語が展開していくなかの水族館とプラネタリウムのシーンの浮世離れしている浮遊感が幻想的。 伊世は生を噛み締めながら怯えながら死に向かっていく。そんな生きているのか死んでいるのかわからないシーンが丁寧に丁寧に描かれてました。 三途の川と表現したのは主にこの場面のイメージです。 ホテルでのシーンでの伊世が生に対する意識を取り戻していくシーンがダイナミクス。 印象的です。 夜行バスを待つまでの一週間→ラストまでのシーンは非常に穏やか。 ここの場面は今までの緊張感が少しほぐれた気がします。残された伊世のために必死に気持ちを抑えながら最後の仕事をする楠太郎に涙。 ラストシーンは圧巻です。 溜め込んでいた楠太郎の最後の気持ちが溢れ出てしまうシーン。楠太郎と伊世の別れの最後の言葉のやりとりが秀逸。「言ったらついてきちゃうでしょ」の一言がめちゃくちゃ効いてる。 エピローグ 余韻を感じるラスト。 感想 楠太郎と一緒に過ごしていくなかで少しずつ生きていく感覚を思い出していく伊世と、最後まで死神から目を話してもらえなかった2人の最後が本当に切ない…。素敵な作品ありがとうございました。
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