潜水艦7号

短くも何と濃密な遣り取りであることか
「小説を書く際の下調べを10したとして、その10の全てを原稿に書き込む必要はない。10の内2を書けば読者は私が10を知っていることを分かってくれる」 かつて松本清張はそう語ったそうです。この作品を読み、最初に浮かんだ言葉がそれでした。 いったいどれだけ下調べすれば、これだけの文章が書けるのだろうか。その途方もなさに思わず唸りました。幕末から明治頭に掛けての新選組の軌跡、各隊士たちの実像、当時の情景にいたるまで何と精緻なことか。 作者の名前である「戦(そよぎ)」が示す通り歴史好きであるのは間違いないとしても、その突っ込みの奥深さと観察眼の鋭さは目を見張るものがあります。 そしてこの綿密なバックボーンを元にして書かれた本小説は、かくも短く、かつ特に何の変化も与えない会話劇であるにも関わらず途轍もなく濃密なのです。その一行の一行の何と重たいことか。 また、そうした多角的な知見によって、キャラのアウトラインが見事に表現されています。斎藤が持つ心の迷いをあえて『光』と例え、土方の諦観を『陰』と表す。……これはその後の彼らの身の振り方を如実に表わしているといっていいでしょう。 さらに言えば冒頭結文の年表や、淡々と語られる時代背景、または短く切られるセリフの放つ寂寥感が、作品の持つ世界観とマッチしている点について作者の卓抜したセンスを感じずにはいられません。 私はとのさんの紹介でこの作品に出会えましたが、こうした勉強の機会を頂いたことに、感謝を申し上げたいと思います。 本当に素晴らしくも見事な一作でありました。
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潜水艦7号さん、こんなにも素晴らしいレビューをありがとうございます!✨ とても古い処女作です。とのさんの配信をきっかけに、まさかこうして日の目を浴びる時が来るとは……想像もできませんでした。 下手をしたら、娘の作品に寄せて頂いたレビューに母親がお礼申し上げる、という程の時間と思想の開きがあるかもしれません。冷や汗ものです!けれど本当に嬉しく思っております! 松本清張先生のお言葉!?あわわ恐れ多いです💦子供でしたから、情報のソースや信ぴょう性を疑うこともなく、本当に何でも胸いっぱい吸い込んでいたのだと思います。大好きな新選組のロマンを追い求めて。 今もう一度この話を書くとしたら、別に斎藤は土
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