狗夜 凛

この臨場感。音が聞こえてくるようでした。
これは、主人公である「あき」が元服し、一人の武者として初陣を飾るというお話です。 ネタバレを極力回避し、感想を書かせていただきます。 合戦というものを、現代の人は見たことがありません。 見るとすれば、時代劇や映画でしか叶いませんし、刀や鎧という装備も、博物館や専門店でしか目にする機会はありません。 必然的に私たちが思い描く合戦は、映像作品としての動作、音、色などに大半を支配されてしまいます。 確かに刀の装飾具、鎧などは色鮮やかに残っているものもありますが、映像作品として見るものとはまるで違い、現代塗料のような発色はしておらず、また、動作についても、現代の殺陣や剣術では、無数の敵を斬り伏せることなどできません。もっと野戦的な、美しさよりも荒々しい剣でなければ、戦場で生き延びることは難しかったでしょう。 今作『赤備え』は、時代劇でありながら、ファンタジー的な要素を多分に含んだ作品です。 ゆえに、漢字や専門用語は多めですが、わりとスムーズに読み進めることができます。 作者の中越景さんは、難しい描写をさらりとこなし、時代劇が苦手な人に向けても読みやすさを追求しているように感じました。 「刀を佩く」という言葉などは、一般的に使いませんが、当然、非常に適した言い回しであり、強いこだわりが伝わってきました。 このように、生粋の時代小説ファンに向けても気を配りつつ、時代小説を敬遠する層に向けても気配りを忘れない、繊細な作家さんだと思います。 戦闘シーンの描写は、金属が弾け合う音、衣擦れ、足音、怒号などが響き渡る中でかなり生々しく書かれており、主人公・あきの強さは勿論のこと、周囲の兵たちの息遣いまで聞こえてくるようでした。 私も戦闘シーンにはこだわりを持っていますが、これは読者に脳内の映像をそのまま見せる、とても気を遣う作業です。 作家としての個、読者への配慮、文章への俯瞰が一体にならなければ、戦闘シーンはとても陳腐で分からないものになってしまいます。 そのバランス感覚と、血なまぐさく激しい描写が、作品全体をぎゅっと締めており、短編の中で、あきの初陣がいかに苛烈なものだったかを感じ取ることができます。 「赤」と「白」にこだわったことも、作品の格を上げた一因だと思います。 単純に面白かった。 そして、すごかった。 『赤備え』が多くの方に読まれるように、私は願ってやみません。
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いやはや、本当になんとお答えすればよいのか迷うほど凄い感想をいただきまして……まずは、ありがとうございます! ガチガチの時代小説ほど重くはなく、かといって安っぽくもない、私なりの読みやすい時代小説をイメージして色々と考えて悩み抜いて頑張って書いたつもりでしたが、このような感想をいただけると、字書きの端くれとして冥利に尽きるというものです。何よりの励みとなりました。 エブリスタで無数に瞬く数多の作品の中から私の作品を読んでいただき、あまつさえこれほどの感想までいただき、改めて、再度の御礼を申し上げます。 今後とも、何卒よろしくお願いします。
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