たすう存在

Life
Lifeを日本語に訳すと、「命」と「生活」という二通りの訳し方ができる。この二つは似て非なる言葉だ。 本作のタイトルであるLifeはどちらの意味なのだろう、というのが一読目を終えた時に最初に浮かんだ感想?だった。 命についての物語であることは間違いない。だけど、延命措置を施した患者とその家族がどのように暮らしていくのか、あるいは尊厳死を選んだ家族がどのように暮らしていくのかを考えさせられる物語でもある。 ひとつだけはっきりとしている事がある。良い小説というのは、それを読んだ者に、その人の生き方について考えさせる切っ掛けを与えるものの事をいうのだということだ。 我々が書く小説というコンテンツに人の生き方を変えるほどの力はない。読む人の暇を一時でも消費させることができれば御の字だ。 ところが、まれにではあるが、それを読んだ後に自分の生き方や価値観について考えさせられる小説というものがある。変えるのではなく考えさせるのだ。 それは決して押し付けがましく説教臭い物語ではない。そういう物に対して読み上手な読者は鼻が利く。そして嘲笑の的にすらする。 良い小説というのは説教臭くない。道徳の授業で使われるような物語ではない。ただ主人公の物語をどんと置き、そこにこう考えるべきでしょうという説教は微塵も混ぜずに、それでも読者に考えさせる。 自分がこの立場ならどうするだろう。 自分はあの時こういう判断をしたが、あれは正しかったのだろうか。 読者が素直にそう考えるのはなぜか。それは作者が正直だからだ。ウケ狙いではなく、感動させてやろうという目論見ではなく、その作品に描いた物語を、風景を、読者に伝えたいという純粋な想いを動機としてその作品が書かれたからだ。 このような、考えさせられる作品を書ける作家は多くはないと思う(もちろん僕にも書けない)。 このLifeで描かれたテーマはとても普遍的なもので、それをこういった形で物語に落とし込むことができるのは、作者様ならではだと思う。 本作が非の打ち所がない仕上がりであるだけに、作者様による同じテーマを扱った、例えば長編であったり、複数の人物の違う見解であったりを描いた違う切り口の小説を読んでみたいと思うのは欲張りすぎだろうか。 それはさておき、本作では大変良い読書体験をさせていただきました。ありがとうございました。
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