小説メモ ブラック企業に勤める男がいる。 男はそこで怒る人間たちをじっと見つめている。 成績は可もなく不可もなく。 男の帰宅後の楽しみは、その日見た怒る人間たちを絵に描くことだ。 その醜い形相を描くとき。 男の心には、真実を描いているという愉悦が浮かぶのだった。 男は絵を描き終わると、すぐに捨ててしまう。 週二回の燃えるゴミの日のうち、男が絵を捨てるのは火曜日だった。 ある日。 会社に労働基準監督省の役人がやってくる。 会社は悪質なブラック企業として厳重処分を受ける。 そして、その原因になったのはネットにアップされた複数枚の絵。 それらは男が捨てたはずの絵だった。 社内は疑心暗鬼の空気が満ちる。 男は自分の絵を拾った人間を突き止めるべく行動を開始する。 しかし、他の社員から怪しまれないようにするために大胆な行動がとれず、うまくいかない。 けれど、書くこと自体はやめられず、描いた絵はどこかでまとめて焼くことにして部屋の隅にまとめていた。 けれど、ある日。男が帰宅すると部屋の隅でごみ袋に詰めていた絵がすべて消えていた。

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