「雨音」 木造二階建て、築三十年のボロアパートの屋根が吹き飛んだのは、一か月前の台風の時だった。 それ以来、我がすみかである201号室の4畳半の中央には、雨のたびに水滴が落ちてくる。 朝、鍋を置いて、201号室を出て、夕方、201号室に帰ると、鍋にたまった水を捨てる。 不便な生活ではあるものの、 ポツン、ポツン、と雨漏りが落ちる音を聞くのは、なかなか風流なものである。 特に、休日部屋にこもって読書をしながら、窓の外のゴーゴーヒューヒューザーザーと鳴る豪雨を眺め、ポツン、ポツンという雨漏りの音を聞くのは。 荒れ狂う豪雨と、自分は隔絶された環境にいることを実感できて。 まるで、小旅行のようである。 そして、今日もまた、私は201号室において雨漏りの音を聞いている。 ただ、問題があるとすればひとつ。 今日は雲一つない晴天であるということである。 私は天井から一定間隔で落ちてくる液体をにらみ、けれど、決して天井には目を向けないようにして、ゆっくりと201号室を、後にした。 閉じられた玄関の扉の向こうから。 ぽつり、ぽつり、と 聞こえるはずのない雨漏りの音が聞こえるような気がした。

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