「姉妹」 私には、妹がいた。 両親はそんなものはいなかったというが、私は覚えている。 私には妹がいたが、ふいに、この世界から消えてしまったのだ。 私は妹がまだ生きていると信じている。 信じているから、まだ生きていられる。 ぐしょぐしょに濡れた制服で、トイレにばらまかれた教科書を拾い集め、雑な中絶を繰り返していても、生きていられる。 妹だって、どこかできっと生きているのだから。 家に帰ると、スマホが光った。きっとまた知らない男からだ。 私の体の代金は、同級生へと払い込み済みらしい。 いくらで売られたのか。私は知らない。 鏡を見ると、そこには、自分ではないような自分の顔があった。 自分の顔はこんな顔だっただろうか。 鏡の中の自分が驚いた顔をした。 「おねえちゃん!」 鏡から声が聞こえた。長年聞いていなかった妹の声だ。 「おねえちゃん。わたしはいせかいに飛ばされたの。 このかがみで、おねえちゃんとかいわできるわ」 やっぱりだ。やっぱり妹は生きていたのだ。 こんなにうれしいことはない。 こちらに帰ってこれないのかと聞くと、それは難しいという。 「だけど、おねえちゃんといれちがえなら。 わたしがそっちのせかいにいって、おねえちゃんがいせかいにくるの」 それじゃあ、意味がない。 私は妹と触れ合いたいし、こちら側の汚い世界を妹には見せたくない。 けれど、妹だってこちらの世界へ里帰りしたいだろうし、両親にだって会いたいはずだ。 両親も、妹の姿を見ればきっと妹のことを思い出すに違いない。 私は一日だけ妹と交代することにした。 ついでに、妹には私がいじめを受けていることと、私と妹の容姿が似ているために人違いをされれば、妹がいじめの被害を受ける可能性があること。 そのため、絶対に家の外に出ないことを厳命した。 「そっか、そうなんだ。わかった」 「本当に注意してね。あいつらは人じゃないんだから」 「うん。おねえちゃんは、いせかいでゆっくりしてて、きっと、つぎにめざめるときは、もんだいは解決してるよ」 「うん。生きててくれてありがとう。貴女のおかげで私は生きてこられた」 「うん。いきててくれてありがとう。貴女のためなら私はなんだってできる」 一日が過ぎ、私が異世界から帰ると、 私をいじめていた連中は皆殺しになっており。 我が家には複数台のパトカーが止まっていた。

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