「雨音」のつづきのつづき 「声漏り?」 男が不思議そうに言った。 「ああ、こもりとも、こえもりともいう。簡単に言うと、声の雨漏りみたいなもんなんだが」 俺は、どう説明しようかと、目の前の紫煙を見つめる。 「そうだな。俺たちの体が屋根で、普段俺たちが聞いてる言葉というのはその屋根にぶつかってる雨音みたいなものだ。 と言って、通じるかな」 「いや、その例だと、言葉は雨音じゃなく、雨になるんじゃないか?」 「雨は言葉ではなく、言葉に込められた想い。真意。そういったものさ。 言葉と想いが別々。言葉にしても真意が伝わらない。よくあることだろ? これは、雨を屋根が弾いてしまってるからさ」 「言葉は所詮、音か。わからんでもないかな」 男は、納得したような釈然としないような顔で、一応うなずいて見せた。 根が素直な男だなと思った。 「それで、あんたの声漏りだが。 そいつは、屋根の部分に穴が開いて、雨が中に入り、屋根裏で水たまりになり、雨漏りとなって落ちてきた状態だ。 つまり、普通なら体表で弾かれる言葉の真意が、体の中に入り込み、たまって、ぼそりと独り言として落ちてきた状態」 「なるほど、それで、声の雨漏り。声漏りというわけか」 つづく

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