「有精卵との会話」 目玉焼きを作ろうと卵を割ったら、有精卵だった。 うげえ。という感想だった。 フライパンの上で香ばしい香りをさせながら、毛の生えそろっていないひよこの成り損ないがこちらを見た。 「無念なり。このようなことになるとは」 古風なしゃべり方のひよこだ。 けれど、この有精卵はどうするべきか。 ごみ箱に視線をやると、ひよこがくちばしを動かした。 「このような状況では、生きることはかなわぬだろう。 運がなかった。あきらめよう。せめて、おぬしの血肉となることで我が生きた生きた証としよう」 「え、普通に嫌なんだけど」 「なにゆえだ。そのわきに置いてあるベーコンよりも、我れの方がタンパク質豊富であるぞ」 「栄養素だけで言えば、プロテインバーのがタンパク質豊富かな」 「そんなことはないであろう」 「じゃあ、君、タンパク質15gある?」 「未成熟ゆえに、全体重を合わせても5gであるが、気持ちは20gあるぞ」 「気持ちで、おなかは膨らまないから」 「気持ち分を差し引いても5g分は腹が膨れるであろう。 どうせ、卵を食らうつもりであったのだろう。ちょうどよいではないか」 「いや、目玉焼きとクロワッサンでハイソな調色な予定だったから。 朝から焼き鳥はちょっと」 「なら、冷蔵庫に入れておいて夕食時に食らえばよかろう。我をタッパーへと入れるがよい。 そこのトースターでやけば、夕方でもできたての味になることを保証しよう」 「君を冷蔵庫に入れるのはなあ」 「問題あるか?」 「匂い移りそうだし」 「では、どうする。すぐに食すか」 「いや、捨てちゃおっかなって」 「なにをいう。フードロスという言葉を知らないのか。 いま日本では一日に億個のおにぎりが捨てられているんだぞ」 「おにぎり換算って、廃棄してる重量なのかカロリー計算なのか理解に苦しむし。 それは小売りに言ってくれ。消費者に言われても対策の取りようがないよと思うよな」 「なにはともあれ、食べ物は大事にしろということだ」 「君を食べモノに分類するのはちょっと」 「貴様はフィリピンのばろっとも知らぬか」 「いや、ここ日本で、自分日本人のかんせいなもんで、外国の料理を例に出されても困るかなって」 「食え。食われないのなら、我は何のために生まれてきたのだ」 「まだ生まれてないけどね」 結局そのまま捨てた。 彼の目を僕は忘れない
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