「兄弟」 凧が2枚。 空を飛んでいる。 糸の切れたやっこ凧。 ふらふらと、風にあおられ飛んでいく。 「兄弟かな」 一枚を追いかけるように、もう一枚が飛んでいく様を見て、つぶやく。 お兄ちゃんを追って、弟が飛んでいるのだろうか。 それとも、弟を心配して、お兄ちゃんがついて行っているのだろうか。 ずっと仲良く飛んでいられればいいのに。 飛んで行ってしまえれば、どんなにいいだろうか。 そう思ったところで、ひときわ大きな風が吹いた。 二枚が絡み合い落ちていく。 風が落ち着き、雲一つなくなった空を見て、ほっと溜息をつく。 「落ちたのが二枚一緒で良かった。 一枚だけが飛び続けるなんてかわいそうだもの。なあ、そうだろ」 僕の方を見て、男が言う。 手にはスコップ。 足元には穴と、僕の大事なお兄ちゃん、だったもの。 「君は大丈夫だよ。お兄ちゃんと一緒だ。二人をバラバラにはしないさ。 任せておいてくれよ」 男はそういう趣味の人間らしい。 自分で語っていた。 子供を埋めるのが趣味なのだという。 僕が殺されるのは、お兄ちゃんのついでらしい。 「君のおにいさんも、君が一緒の穴に入ってくれることを、喜んでくれるさ」 男は穴を掘り上げたらしい。 僕の前に、立った。 「ふざけるな!」 突如、天から何者かの声が降ってきた。 同時に大きな影が、男に襲い掛かった。 「な、なんだ!これ!なんなんだよ!」 突然のことに男は動揺し、襲い掛かってきた陰から逃げるように、一歩、二歩と後ずさり。 そのまま、自分が掘った穴に落ちて、頭を強打して死んでしまった。 穴の中の男の頭には、一枚のやっこ凧が絡まっていた。 それから、僕は警察に保護された。 数年たった今も凧を見ると、その時のことを思い出す。 きっと、犯人に襲い掛かったやっこ凧はお兄ちゃんだったのだ。 そして、もう一枚のやっこ凧は今も飛んでいるに違いないのだ。
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