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惨たらしい悲劇と、希望を感じるラスト
久しぶりの新作、覚悟を決めて読ませていただきました。他の作品と同様に、今回も実際に見て来たかのような芯に迫った描写で……心をザクザクに抉られました。 戦時中の樺太のこと、というか、樺太のことをほとんど知らなかったので、こんな悲劇があったことも、もちろん初めて知りました。満州に住んでいた方々が大変な苦労をされたことは何となく知っていましたが、樺太でも同じようなことがあったのですね。勉強になりました。 また、女性たちが電話交換手として危険な地域で最後まで働いていたことも知りませんでした。比べることではないかもしれませんが、現在の便利な通信事情を考えると、命を賭して職務を全うした彼女たちの結末が、より一層、切なく悲しく感じます。 自分の意志だけではない様々なものに背中を押されて命を絶ってしまう悲劇は、戦時中、最前線でも銃後でも起こっていて、京子のように「乗り遅れた」人も少なくなかったんでしょうね。単純な美談だけではなく、ありのままに近い事実が後世に伝わっているのは、後ろ指を指されながらも生き抜いた彼らのおかげなのだと思うと、よくぞ生き残ってくれたなと有り難く思います。 京子、時雨、酒井の3人の視点で語られる物語のどれもがリアルで、深みがあって、濃厚で、過不足がまったくなくて、素晴らしい完成度だなと感じました。酒井に背中を押され、京子が事実を語り継ぐ覚悟を決めた姿には希望を感じました。とても読み応えがありました。執筆お疲れ様でした。
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