構成の見事さとテーマの素晴らしさで構築された完璧な作品
 男女の関係は恋愛を伴う場合、その結末は「結婚」か「別れ」のどちらかであろう。  だがもうひとつ。一旦は別れたものの再会して新たな関係が生まれることもある。それは「恋愛」の場合もあれば、かつてと全く違う別の関係の場合もある。  雨谷光は最愛の妹の突然の死に絶望するなかで、妹の死が大学の学友、真木柊一に関係があるのではと考え始める。真木は妹を弄び死に追い込んだのではないか。  そんなとき、雨谷は真木の子どもを宿した来島愛に出会う。真木に中絶を迫られ自暴自棄になっていた愛と敢えて結婚し、お腹の子の父親となり、妹を死に追いやった真木に復讐しようとする。  この作品の技巧的に見事な部分は、まず雨谷の視点で物語を始めていることである。読み終わった後、最初から読み返すと、一層それがハッキリと分かる。  私たちは雨谷の視点で物語を読み進め、雨谷に感情移入する。そして雨谷の思い描く真木のキャラクター……恋人がいながら雨谷の妹とも関係を持ち、しかも最後には恋人までも裏切る自分本位な人物を心に描く。  実はこの時点で、読者は作者の巧妙な罠に嵌められているのである。  読者は読み進めるうちに、雨谷の視点で語られた真実への信頼が揺らぎ始める。そして最後のどんでん返しを読んだとき、作品冒頭部分の雨谷の視点というのは、実は雨谷自身が後ろめたさを感じている大きな真実を隠蔽するための自己欺瞞に過ぎないのではないかと思い至るのである。  このあたり、ミステリーと呼んで差し支えない構成の妙である。  もうひとつ、この作品の最大の魅力を語るとすれば、作品のテーマである。  不幸なすれ違いで別れた男女が再会し紆余曲折を繰り返した末、恋愛の一般的な結末である「結婚」、「別れ」を超越した「究極の愛」の境地に達する。  お互いが別の道を歩み、それぞれの幸福を掴み、もしかしたら二度と出会うことはないかもしれない。  だがふたりの心は、「結婚」「別れ」を超越した崇高な「究極の愛」で結ばれている。その絆は生きている限り、永遠に消えることはないだろう。  この作品のラストに描かれる「究極の愛」の描写は読者に深い感動を与えることと思う。  別れた男女の再会が「究極の愛」に昇華されるスケールの大きな感動の余韻は、今も私の心から離れない。  小説としての技巧とテーマ。このふたつが成功した完璧に近い作品だと思っている。
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倉橋様😭 勿体無い程のご感想、ありがとうございます🙇‍♀️ 書きたいままに、書きたいストーリーを思いのままに書いた自分としては、技術的にも素晴らしい作品と思っていただけた事、とても感動しております🙇‍♀️ そして倉橋様の文章能力がレビューの文章構成から溢れ出ていて、それにも感銘をうけ、尊敬すら覚えています…流石書籍化を何本も経験されている方…と言った感じです…🙇‍♀️ この度はありがとうございました🥲 倉橋様にこの作品を読んでいただいた事、とても幸福です🙇‍♀️
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