葛月える

タイトルと、ジャンルと、衝撃の出だし
ほのぼのとした空気を想起させるタイトルに、SFというジャンル、開いてみれば衝撃の出だしにガツンと拳をぶつけられたような気持ちになりました。 それらが全てちぐはぐなのに、最後には不思議と一つにまとまる。それでいて切なさが静かに広がる読後感でした。 「柔軟剤が香る家庭は、満たされている」の言葉に全てが詰まっているなと思いました。 「僕」はどんな満たされない思いがあって爆弾魔になったのでしょうか。彼女は満たされた家庭で育ったから、自分には届かない人だ…そんな思いが、「僕」を闇に堕としたのか。 「僕以外のみんなと笑った事のある」彼女も、「僕」のことをみんなとは違う存在だと認識していたように思われます。この場面で放たれる「あなたを信じてる。ごめん」の言葉は残酷ですよね。孤独に囚われたような、という描写があるように、彼女も実は心の底では満たされない思いを抱いていて、「僕」のことを自分に近い存在だと思っていたのでしょうか。そう考えると、二人はどこかで淡く惹かれ合いながら、諦めていたことになりますね。もちろんそれは全部私の妄想ですが、ついそんなことを考えてしまうくらい、奥深い作品だと思いました。 作品の最後、死にゆく時の中で、「僕」は神に、宇宙に思いを馳せます。 宇宙に柔軟剤の香りがあれば、死後、どこへ行ってもその香りを感じられますよね。 自分と彼女の唯一の繋がりである柔軟剤の香りでさえ絶たれようとしている中で、尚それに縋る「僕」の最期が、すごく切なくて何度も読み返しました。 もし初めに「僕」が迷わずボタンを押していたら、物語も始まってはおらず、このような良い作品に出会うこともなかっただろうな…と、いち読者として思うのでした。
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