lucifero

君の書き残した手紙を何度も読み返してみた。 「自己とは何か」 「他者とは何か」 「過去とは何か」 「シとは何か」 「恐怖とは何か」 「人の存在とは」 卵の殻の残骸。 焼け焦げた沢山の付箋。 ひとつひとつが卵だったんだね。 君が温め観察しながら付けた沢山の付箋。 僕が踏み割ってしまったようだね。 今まで君が孵してきた卵。 それが君のひとつひとつの作品だったのか。 蟻だとしても、竜だとしても。 君が君であるように。 僕は僕のままだ。 宇宙から見れば光のひとつ。 その緻密さも、 その巨大さも、 畏怖すべき象徴。 『混沌』 新たに生まれた竜の名前。 君がファンタジーを描いているのではないことは分かっているつもりだ。 全ての法を破壊し尽くし、 君を飲み込み、 宇宙の果てへ。 君が狂気に陥らなかったことに ホッとしている。 無闇に君に関わったわけではない。 もし、その目が無ければ、 映りもしなかっただろう。 しかし、君が嬉々として向かった先に 一抹の不安を覚える。 君の内に宿った『混沌』 ファンタジーなら楽しんで見ていられるのだけれどね。 勿論、産み落とすのは君自身だ。 無闇に手を貸すことは出来ない。 君の逞しさにホッとするよ。 だけど、関わった僕にも責任がある。 責任とは負い目のことではない。 君との繋がりだ。 勿論、全ては繋がっている。 社会もまた『混沌』へ向かっているように見える。 僕ら一人ひとりの意識は言葉に阻まれ、 独りの内に閉じ込められてしまっている。 しかし、理屈を飛び越え恋する瞬間。 まだ僕らは繋がるすべを知っている。 恋愛だけの話じゃない。 道行く猫に、 沈む夕日に、 闇の安らぎに、 まだ世界は繋がっている。 僕が話した『無』は ム秩序を生み出す為の始まりではない。 ひとつだったものが多様性を望んだ。 拡大していくフラクタル。 その始まり。 壊れた墓石は蟻の目に『混沌』だと映るだろうか。 踏み割るつもりもない。 ただ、自分の内に孕む『ひとつ』を辿り、その上を歩いていくだけだ。 その『ひとつ』を人の世では愛と呼ぶ。 僕らが包まれてしまった氷の壁。 互いは見えるのに言葉が通じない。 宇宙の果てまで行くのなら、 全ての氷を溶かすような魔法を身につけて帰ってきて欲しいものだね。 楽しみに待ってる。
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