「拒否の理由」 キスを拒否した。 付き合って一ヶ月。 彼のことは好きだったし、私自身期待をしていた。 時刻は夕刻。 夕焼けに赤く照らされた教室には、私達二人しかいなかった。 吹奏楽部は空き教室で「ぷわー」と金管楽器を鳴らしていた。 野球部は「オナッシャース!」とおらんでいた。 カラスが鳴いていた。 それらの音を渡しの左耳は聞き流していた。 イヤホンから流れるポップスを右耳だけで聞いていた。 それは、昨日発売したばかりの新曲で、同時に、彼の左耳のイヤホンに流れていた。 キン!と金属バットの軽快な音がする。 つられて外を見る。 何も見えない。 視線を戻す。 彼と目が合う。 イヤホンから聞こえるのは、昨日発売したばかりの新曲で、恋の歌だった。 彼はきれいな二重まぶたで、長いまつげが瞬いた。 私は彼の瞳を見ていた。 彼の瞳が、私の唇を捉えているのを見ていた。 ゆっくりと彼が近づく。 キスを求められているのだ。 私は拒否をした。 彼のことが嫌いだったわけではない。 キスが嫌だったわけではない。 ニンニクマシマシ背脂チャッチャ豚骨カレーラーメン。 その日の昼食だ。 彼とはそれっきりだ。 中学生の恋とはにんにく一つで簡単に消えてしまう儚いものなのである。
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