あめ

りんご飴のように甘酸っぱくて
 まず、2人のキャラクターがとても好きだ。ベタ惚れの隼と、ちょっとツンデレなことちゃんの対比が良い。2人の会話文が微笑ましくて、思わずにやけてしまう。  また、各話の最初の地の文のセンスが光っている。  私が1番好きなのはこれだ。 『青玉のような青さを纏った空には、雲の1つもない。』  私はこれを読んだ時、「あおだま」ってなんだ? と思った。調べたらこれは「せいぎょく」と読んで「サファイア」を意味するらしい。空の青さをサファイアに例えることは私には思いついたことがなかった。確かに、どこまでも透き通った空の青はサファイアのようだ。地の文と比喩が苦手と話していた三嶋悠希は一体何だったのか。    三嶋悠希はこれを「初めて書いた恋愛小説」と言っている。しかし、とても初めてとは思えない。告白、嫉妬、ドキドキ、デート、別れ。「恋」が凝縮してギュッと詰まっている。実在する高校生カップルの会話をそのまま切り取ったかのような、瑞々しい採れたての果実のような会話文。恋する者の繊細な心情が描かれた地の文。その2つが絡み合ってこの作品を巧みに構成していた。「好き」を伝えられないシーンでは胸がギューッと締め付けられた。巧みな恋の描写に拍手を送りたくなった。  夏の花火のように儚くて切ない恋愛小説だった。「ほろ苦甘酸っぱいひと夏」。その通りだった。りんご飴のように甘酸っぱくて、でも心を締め付けられるようにほろ苦くて。でも確かにこの夏は2人にとって忘れられない大切な思い出になっただろう。たとえ長い人生から考えると一瞬の出来事だったとしても。 ◇  この物語を読めて本当に良かった。この物語を書いてくれてありがとう。  ホラーも、ミステリーも、童話も、恋愛も。こんなに幅広いジャンルの物語を作り出すことができるのが本当に素晴らしいです。私は勝手に三嶋悠希の作品の魅力は「構成力」だと思っています。初めて受賞作を読んだ時、その構成力に唸らされました。すごすぎました。それは受賞作だけではありませんでした。先の読めない展開や、読者に与える穏やかな(または衝撃的な)読後感。今回の作品もそうでした。最後のタイトル回収も良い読後感でした。このままスタッフロールが流れるのではないかと思えるほど。  次はどんな作品を見せてくれるのでしょうか。これからの作品がとても楽しみです。ずっと応援しています。
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