文面から聴こえてくる美しいメロディと美しい音楽論
  『論文書くピアニスト』というタイトルは、誘い水になっていると思う。さらに、書き出しのみずみずしさに、良作の予感はしていた。   音楽を学ぶ学生の日常がどんなものなのか、畑違いの私にはぼんやりとしたイメージしかわいてこない。けれども、日々音楽と真剣に向き合う主人公水沢れいをはじめとする登場人物たちに、永遠に戻れないアオハルへのノスタルジアもあいまって、拝読していると、ひだまりのなかにいるような気持ちにさせられた。 その一方で、音楽における学術的側面(=論文)に大きな刺激をもらい、さらに、音楽そのもの(クラシック)にも惹かれるきっかけをいただいた。  自分にとって良い作品とは、前述したように、シンプルに何らかの感動をくれるもの、そして、物語中で語られている〝何か〟を、自分で体験してみたいと思わせてくれ、実際の行動へとつき動かしてくれるものである。  本作品にはその両方がつまっている。これでワクワクするなというほうが無理というもの。こうしてレビューを書かせていただいて、あらためて新しい刺激をたくさんいただけたと思っている。  主人公の水沢れいが抱える問題は、なかなかどうして複雑だ。ずっと音楽に携わってきて、音楽への向き合いかたも人一倍誠実、自分や周囲を客観的に分析する能力も備わっているのに、何か足りない。ピアノを学んでいくことへのモチベーションがいま一つ上がらない――致命傷にも成り得る問題を抱えた彼女に、生気をあたえたのは、ひとりの先輩の存在――渡瀬紘人。  彼に認めてもらうために、れいはそれまで以上に自身のピアノを研鑽していくが……  音という目に見えないものを文章で表現する際のメロディアスな表現、リアリティああふれるウィーン留学生活の様子、失恋、卒業後の進路の悩み、理不尽にも思える社会という壁との正対――水沢れいが感じた喜びも痛みも、大人へと成長していく過程で誰もが一度は味わったことがあるもの。  その等身大の姿を、学舎の木々を、プレイリストを聴きながらいま一度、思い浮かべている。    音楽、恋、青春――雄弁に語りかけてくる物語世界を、ぜひとも味わってほしい。
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ことりはねさん、素晴らしいレビューを書いていただき感激です。本当に心からありがとうございます。 ことりはねさんの美しいレビュー、読みながらこちらが感動しました。自作を振り返り、感慨深いです。 深く読み込んでいただき、音楽の底知れぬ魅力を汲みとっていただき、ただただひたすらに嬉しかったです。 本当にありがとうございました。この小説を書いて良かったです。
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あやみさん、ありがとうございます! いつものことですが、簡潔にまとめることができないもので、今回も長々語ってしまいました。 この作品を通して、クラシック音楽に自分なりに開眼を得え、グルダを知り、シェンカーの美しい音楽論に感動し、金子三勇士さんのリサイタルを体験できました。 自分にとってのワクワクがまた一つ増えました✨ すてきな物語をありがとうございました!
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