(仮タイトル)蜜原みな子傑作集に寄せて①
 蜜原みな子氏の作品が純文学を基調とすることはおおかたの読者の認めるところであろう。氏の作品にスラスラ読めるものは何ひとつないと云って過言ではない。  氏の作品はライトな雰囲気を謳っても、途中で立ち止り、或いは前に戻って文章を言葉に出して読み、改めてその意味を、そして文章の背後に埋もれた蜜原氏の思想や主張を理解し読み取らなけれは読破することば出来ない。  それは文明批判でもあり、現代社会への警鐘でもあり、あるときは古今東西森羅万象の哲学や思想ヘの賛美であり批判でもある。  紙の小説ではない、このようなスタイルのネットの小説を読むとき、純文学が一番投稿に適していないと考えるのはその点である。紙の小説のようにパラパラと手軽に読み返すことが煩雑だからである。  それにも関わらず、蜜原氏の作品が圧倒的に読者の支持を得ているのは、作品の発想の奇抜さであり、常人の到底考えつかないようなストーリーを作品に持ち込んでくる。  ここが肝心であるが、並の作家なら娯楽小説としてまとめ、読者からの表面上の喝采を求めるところである。  そこで手軽にまとめないところが、蜜原氏が蜜原氏である所以である。  非常にストーリーは面白く魅力的だが、痒いところに手が届くほどに読者に親切に細かいところまで教えてはくれない。読者は最後まで蜜原氏の思想や主張に近づこうとして、或いはそれを超えようとしつつ、結末まで辿り着くのである。  ここでこの本(傑作集)の冒頭に収録された氏の最新作である『Wish』であるが、私が既に氏に告げた通り、「思索する人間が読むH・G・ウェルズ」というキャッチフレーズになろうか。  『宇宙大戦争』『タイムマシン』などの作品で知られるウェルズが社会主義者であり、その作品の根底には当時の文明や社会への懐疑、警鐘が込められていることはよく知られている。ただウェルズは大ヒットした作品群においてはエンターテイメントに徹したが、蜜原氏は敢えて読者に対して思索することを求めた。それは小説投稿サイトで読者からのコメントが十を下る日のない氏のエッセー『375ch』で氏が発信する氏の思想や主張とは無関係ではあるまい。  この作品は大きなテーマをいくつも内在させ、それを包括するかたちでひとつのストーリーとして完成させたものである。氏は作品のテーマへの読者の積極的な参加を呼びかけているのである。(②へ続く)
1件

この投稿に対するコメントはありません