倉橋

改めてこの作品を語る……
 この作品については以前に感想を書かせて頂いた。  もしこの作品を読もうかどうか迷っている人には、よろしければ読んで頂きたいと思っている。  この度、既に入賞したこの作品に、改めて朔吉さんが手を入れて改稿したということで、改めてこの感想に付け加えてみたい。  この作品は恋愛ミステリーとして、相当完成度が高いという読後感を抱いた。  恋愛をミステリーに持ち込んだのは、自然派作家として知られるイギリスのフィルポッツであり、その作品『赤毛のレドメイン家』は江戸川乱歩が『緑衣の鬼』に翻案している。「恋愛」が重要などんでん返しの要素となっている点で、改めて朔吉さんの作品に深い感慨を覚えた。  何人もの一人称で展開される構成は、ほかにも読んだことがあるものの、これは案外難しい。  語り手の変わったことが分かり難く、ストーリーが把握出来ない恐れのあること。一番重要なのは、なぜ語り手が変わらなければならないか、読者を納得させる理由がなければ、「意味のない独りよがりの不可解な構成」として、読者と審査員から投げ出されているだろう。  恐らくこの作品も凡百の「投稿者」が書けば、すぐに「選外」に直行の作品と終わるだろう。  この作品のスタートは、妹を失った雨谷の絶望の独白から始まり、妹を死に追いやった人間へのリベンジの感情が、作者の描写の見事さもあり、読者にスッキリ受け入れられている。小説を読むかどうかは、スタートが重要とされるが、この作品のスタートは抜群に巧い。  その後、語り手が次々と交代する中で、雨谷の語る事実と、愛たちの語る事実の解離が次第に読者にも明らかになっていく。  果たして真実はどこにあるのか?読者は次第に不安に駆られていく。  このあたりの構成は、実に見事で読者の興味を惹きつけて離さない。  語り手の変わる構成こそ、読者を最後まで興味津々で引っ張っていき、結末のどんでん返しを成功させたのである。  もうひとつ。実はこの作品は、厳密によめば、 「ある人が勘違いをして逆恨みしていました。逆恨みされた人はいい迷惑です」 というありふれた何でもないストーリーである。  それを感動的な作品として完璧に近い完成度に仕上げた作者の力量には脱帽するしかない。  作者のその後の作品の面白さは、作者が並々ならぬ力量と将来性のある作家であることを証明していると確信する。  
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倉橋様…! またしても身に余るほどの素敵なレビュー…ありがとうございます…! このお話は心から自分の書きたい話を書いたものなので…こうやって私の添削や追加後も何度も読んでくださり、感想やページコメントを書いてくれること、とても嬉しいです🥹 これからさらに精進できるよう、がんばります!!!!
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