秋月 晶

艶感のある純恋バラード。
『雨アガル』に寄せて、レビューを記します。 ※多くのコトを書きたいので、ですますの丁寧語は廃していきます。 本作は、超・妄想コンテスト第225回『雨上がり』をお題とした回で優秀作品に選出され、計2100文字という掌編ながら、ユニークな構成をもって美しい仕上がりを見せている作品だ。 通常の小説は、起承転結が流儀となっているが、本作は3ページ仕立てで、起転結の3ブロック構成、いわゆるABS方式の平歌と呼ばれるJ-POPの作り方に倣っている。 それは1ページ目をAメロ、2ページ目をBメロと捉えると、結びである3ページ目をサビ(S)と読め、Aメロ、Bメロで低音から徐々に高めていき、3ページ目のサビで感情を一気に解放へと導く手法である。 この『雨アガル』のABS方式では、AB部分をシンクロパートとし、Sの印象に影響を及ぼす、いわば感覚で言うところの『感情移入』を効果的に用いつつ、雨上がりに滲む優しい愛を描き出していた。 作者である笹乃さんは、本作のようにbpm(拍数/テンポ)の緩やかな作風が多いため、総じて文字数は抑えめだが、行間の感情を読ませる才に一際長けていると言えるだろう。 本作において名が明かされているのは、艶子という女性1人であるが、実質的に造形されたキャラクターは3人だ。 この艶子は、一人称視点での主役ではない。しかし作品を読んで読者が感じられるのは、彼女の主人公への献身よりむしろ『恋』の一語だと思う。 静かなる書き出しのAから、音階を上げたB、そして作品を決定づけるSへの橋渡しにより、主人公と艶子の間に漂う確かな恋のさまを感じ取れる。 個人的見解を言えば、本作は明かり射す暗がりで読むに相応しいバラードだ。 そのため、bpmを極度に落とした進行の遅さが、3ページ目の結びで、愛の抱擁感を醸し出している。 英国の作家・思想家のサミュエル・スマイルズの言葉から一つを引用しよう。 『恋愛は人情の永久的な音楽であり、青年には希望を、老年には後光を与える。』 本作『雨アガル』を音楽になぞらえて書いてきたが、人間の恋愛もまた音楽的だ。 若年期の滾るような想いも、老年期の穏やかな想いも、人はそれぞれがそれぞれのサビ(S)を描きながら大切な人との時間を築いていく。 ここに安らぎのバラードを聴けたらば、熟年夫婦の諦めがちな恋にも、経過年数ゆえの希望を持てると私は信じたい。
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秋月 晶さま このたびのレビュー…… ありがとうございました! 以前、他の方へのレビューを拝見したとき「羨ましい」といった感情が生まれたことを覚えています。 それがなんと私のところへ訪問くださるなんて、心からの感謝です💕 まじで声出たしΣ(°ω°ノ)ノ 秋月さんが体調くずされてる中「笹乃はやってるよ」と伝えたく、妄コンに連投もありました。 今作『雨アガル』は、その始まりのときでもあるので思い入れも強く、また自身の好きな調子(笑)で書けたので、そこを音楽に合わせて分析・紹介して頂けたことが「こんなに嬉しいものなのか✨」と感激した次第です。 誘導が上手くできたかしら?と三ページに突入していきます
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