石亀じだん

こんなことが今も世界のどこかで
レビュー失礼いたします。 ここに描かれていることが今も世界のどこかで、現実に起こっていることを忘れてはいけない。 それに対して、自分は何ができるかは考えなくてもよい。私たちにできることはほとんどない。無力ではあるが、こうやって戦争はいけないことなんだ、悲劇しか生まないということを物語として残すことができるではないか。 それがこれを読んだ人の心の片隅にでも、「戦争はいけない」という気持ちを残すことができれば。 ささやかでもかまわない。一人でも二人にでもそんな感情を植え付けることができれば、とても素晴らしいことではないかと思う。 戦いの傷跡が生々しく残る街に出ると改めて、祖国の無残な姿が胸を打つ。それだけに自分だけが逃げたことが胸を苛む。 『復興は一ミリもすすまない』 確かに音楽、ピアノが瓦礫を十グラムでも片づけることなどない。 でもあの女主人のように若い作業員に力を与える。それはわずかかもしれないが、それが復興を力強く継続させることになろう。 『私にできる精いっぱい、でも十年という時間を戦争から逃れてきた』 自分の心の底に棲んでいたものが、それはそんな自責の念。でも戦禍を避けることは罪ではない。 『戦争で傷ついた人、愛する人を失くした人』がいる。でもそこに未来を信じる人がいることは確か。 隙も無駄もなく、風景も感情も見事に醸し出す文章力には驚かされます。 なんともいえない物語に、ただただすばらしいというだけです。
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