Klora

愛すべき日常の輝き
主人公の見ている世界が、見えました。触れているもののやわらかさも。家のなかに流れる空気の温度感みたいなものも。 料理の手順が進んでいくごとに、なにかが、じんわりじんわり、静かに心のなかに染み込みました。主人公のなかに、年数を経て醸成された想い、今も流れ続ける想い、これからも続くであろうもの、それらを等身大の目線で感じることができた気がします。 お母さますが、死してなお、生き続けているのだと感じました。主人公のなかにも、お父さまのなかにも。 物語には、友人関係は描かれていませんが、作品のなかに、それを描写する必要がないのだと理解しました。そういう無駄のない絞り込みも、いいと思いました。友人関係はあるのかないのか、そんなことは、この物語には関係がなくて、このひとは、これからも自分と向き合っていく。だから大丈夫。そう思えました。 いかにもフィクションらしい仰々しい事件が、なにひとつ起こらない。それが、むしろ新鮮で、素晴らしいです。仰々しい事件を否定するわけではなく、そういう作品も自分は楽しみますが、でも、この作品に限っては、独特の時間の流れを出すために、とってつけたような事件はいらなかったのだろうと推察します。 そうそう、お父さまの手加減、この部分が、なぜかすごく好きな部分で、印象に残りました。言葉で大事に想ってるとか言うのではなく、この手加減こそが、娘への想いをそれとなくほのめかしているところに味わいを感じました。 子どもの頃に見た雪景色や、さらっとした雪の手触り、雪遊びのことを思いだしました。よい作品をありがとうございました。いい時間をいただきました。
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