あるアンパンの物語② 訪れた平穏は、退屈なものだった。 腹を空かせた住人たちにパンを与える毎日。何の変哲もない笑顔。そこにある幸せは、いつしか当たり前のものとなった。 この一欠片のパンにも、こうして笑いあえる日々にも、誰も感謝しようとしない。 ーー貴様は何も分かってない。 あの男の言葉が呪いのように、頭の中で繰り返される。 無機質な日々を見下ろしながら、男は今日も不必要となった“パトロール”を続ける。 ーー何も分かっていない。 男はその呪縛を振り払うかのように頭を振るうと、一気に空を駆け抜けた。 「いやあ、ご苦労だったね」 工房に戻ると、おじいさんがいつもの笑
2件1件
あるアンパンの物語③ 思えば、あの男はいつも笑っていた。 どんなに罵られようと、どれほどの傷を負おうと、奴は笑うことをやめなかった。 そして、何度も立ち上がった。まるで、敗北することを望むかのように。負けることこそが使命であるかのように。 そして、男は気付くのだ。 ーー奴は、“絶対悪”だったのだと。 あの男は決して勝とうとはしなかった。あくまで、敗北を重ねたのだ。手段を選ばなければ、いくらでも勝つことはできたはずなのに。 だからこそ、工房の戦士たちは勝ち続けた。その勝利は、疑うことのない必然だった。 あの男は、それを“正義と悪の均衡”だと言っていた。 全く持ってその通り
3件

0/1000 文字