悲しい告白

6/6
1264人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「唇、こんなに噛みしめて……痛いんだろ? きついんだろ? なら、いい。お前に無理させてまで、最後までする必要なんてないからな」 「ち、違っ」  あー! 俺の馬鹿! 先輩に気づかれたじゃないか! 「先輩、違う!」 「真南?」  ぎゅっと先輩の首にしがみついた。言わなきゃ。引きとめなきゃ。  ちゃんと言わないと、本当にこの人はやめてしまう。優しい人だから。とてもとても、優しい人だから。  そんなのは嫌だ! 「俺、すごく気持ちいいんです。先輩の手も唇も、触れる肌も、全部がすごくすごく良くて……あの、俺……こういうことするの初めてで戸惑ってただけで。だけど、どうしてもあなたと続きがしたいから最後までしてほしっ……あっ、んっ」  どうしても最後までしたいんだ。そう、懸命に言葉を紡げば、言い終わる前に唇が塞がれた。 「ぁ……ふっ……ぅ」 「真南、そんな目で誘惑するな」  痛みを堪えてるような表情が、俺を見おろしてくる。  ううん、違う。本当に痛いんだよね?  心から愛してる女性(ひと)を諦めるんだもんね。相手の恋を後押しするために、自分の気持ちは告げずに。  そんな優しすぎるあなただから、俺は……。 「千葉、先輩」  哀しいくらいに優しい人の頬に、そっと手をあてがう。 「先輩? やめ、ないで? 俺っ、俺っ……」  俺じゃ、その女性の代わりにはなれないけど。でも、少しくらいの慰めには、なれるはずだからっ……。 「馬鹿だな、お前。そんな風に煽ったら、もうやめてやれないぞ? いいんだな?」 「あっ、あぁっ……んんっ」  熱い手と唇が、また俺に触れてくれた。 「はっ……んっ」 「真南? きつくないか?」  「だい、じょ……ぶ。あの、先輩?」 「何だ?」 「……っぁ、んっ……はっ、んんっ……ねぇ、気持ち、い? 先輩、気持ちいい?」 「……っ。おまっ……この、馬鹿やろっ。喘ぎながら、そんなこと聞くなよ。おまけに、なんだ、その目。凶悪的に色っぽいだろっ」 「え、何?」  なんか言った? 『馬鹿やろ』の後が聞き取れなかった。 「……何でもないっ。ほら、もっとしっかり、しがみつけ。奥まで揺らしてやる。ちゃんとついてこいよ?」 「んぁっ……はっ……はぁ、ぁん」 「真南……真南っ」 「あっ、先輩……はっ……あっ、やぁっ」  脳天まで突き抜けるような快楽を与えられ、激しい官能に全身を打ち震えさせていても。頭の片隅、ある一点だけは欲情に染まりきってはいない。  冷めていると言っていい。なけなしの良心が、快感の奔流に飲み込まれつつも抗っている。  ごめんなさい。ごめんなさい、先輩。  あなたのつらい気持ちにつけ込んで、ごめんなさい。  優しさを利用して、ごめんなさい。  これ以上は、望まないから。姑息な俺を許してとは言わないから。だから、今だけは――。 「真南」 「先輩っ」  俺だけの、千葉先輩でいて?
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!