12.モーニンググローリー

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〜1年半後の3月〜 「お天気キャスターの御子柴麻衣さん、お疲れ様でしたー!!!」 「みなさん、ほんっとうにありがとうございました!!」  春なのに、大ぶりのヒマワリの束。その日、お天気キャスターを卒業する麻衣に送られた花束は、満開の晴れを思わせる大きなブーケだった。  モーニンググローリーは、その後視聴率を上げ、朝のニュースでは他局をおさえて1位の座をキープしていた。しかし、総合司会の萩が体調不良になり、この春、司会の交代と同時に番組も刷新することとなり、麻衣も卒業となった。  麻衣の出張で撮影されたモーニンググローリーは、オープニングのバック画像として毎日使われた。そして写真集も異例の売れ行きで、すぐに再版された。麻衣自身が撮った写真も評判が良く、それだけでも買いたい、と手にとったお天気ファンが多かったようだ。  麻衣は既に、今後のレギュラー番組が決まっている。  メイク室で簡単に着替え、鶴野の待つ地下の駐車場に向かいながら、初めてこの場所を歩いた日のことを思い出した。 (自分で原稿書いて……水野さんに怒られたなぁ。結局、半年しか一緒に、仕事出来なかったなぁ。)  腕をとられて屋上に向かったり、オンエアの原稿を確認したり、噴火のニュースのために水野が走ったり。全部、この廊下と、お天気室で起こったことだ。  水野のことを思い出すと、胸がきゅんとする。もうしばらく会っていない。この一年半も十分に楽しかったが、水野と毎日過ごした日々はどれも輝いていた。 (あと半年、水野さん、約束忘れないでいてくれるかなぁ……)  そう思いながら、地下のエレベーターを降りて車寄せに脚を向けると、鶴野ではない人影が待っていた。  目を見開く。 「……水野さん!!!」 「お天気キャスターお疲れ様。」  前と変わらないやんちゃそうな顔つきで、水野が笑っていた。 「……どうして!」  水野が助手席を開けると、麻衣を座らせた。セダンは鶴野の車だ。 「鶴野マネ、ほんと良いマネージャーだよな。車借りた。」  運転席に乗り込んで、水野がシートベルトをかける。 「そうじゃなくて、2年でしょ?日本に出張?」 「いや、本気出せば、2年分の仕事は1年半で終わるんだよ。」  どこまで本気なのかわからない。でも、つまり…… 「再来週からこっちで仕事。それまでは休み。麻衣も休みって聞いてる。だから」  嬉し過ぎて言葉が出ない。 「家探すから付き合って。……麻衣が、選んで。」 「あの、それって……その……。」 「……やっぱ無理、我慢できない。」  水野はシートベルトを外すと、麻衣の肩を抱いてキスをした。深く、息が出来なくなるようなキス。 「んっ……」  体が溶けそうになる。唇を離すと、おでこをつけたままの距離で水野が言った。 「一緒に住もう。今日から、俺のモノだから。」 「……!!」 「おい、何バカみたいな顔してんだよ、行くからな。」  楽しそうに笑う水野が、車を走らせた。  地上に上がると、門出には不似合いの雨。それでも、キラキラと光る水の粒が、ボンネットにあたる音が美しい。 「ずっと……」 「ん?何?」 「水野さんと、ずっと一緒にいたいです。」 「……恥ずかしいことは運転中に言うな。事故る。鶴野マネ恐い。」 「やめましょう。」 「嘘。言って。」 「もう言いません。」 「こら柴犬。」 「み、こ、し、ば、です。」 「良いだろどうせ、苗字なんてすぐ変わるんだし」 「………!!!」  どしゃぶりの道路を、縫うように銀のセダンが滑っていく。  これからも、全ての天気を愛することができるから。  ずっと二人、一緒に過ごしていけるはずだ。  雨でも、晴れでも。 fin. あとがき+番外編↓↓ https://estar.jp/novels/25558447/ スピンオフ作品↓↓ 『What's the story?』 https://estar.jp/novels/25560944
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