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大人な恋愛の空気を書いてみよう
大人な恋愛を書いてみよう!! な練習です。
みみみさんから頂いたイラストを元に作成したSSを改稿したものです。
イラストはこちら↓
https://estar.jp/novels/25584687/viewer?page=27
ミスリード作品にしようかと思ったら、書き上げてみたら順番が間違ってしまい、そちらは失敗に終わりました。
【St.Evilnight Saga ~ 2人で張った罠 ~】
―― 何だか騒がしい。
眠い目をこすって起き出し、着替えて身だしなみを整えると、その声は礼拝堂の方から聞こえた。
物陰からこっそり見ると、街の治安維持を担当している信者達が詰め掛けている。
その先頭に、昨日罠にかけた変質者の姿まであった。
「ですから、それには事情が……」
ポラード神父が祭壇の傍で困惑顔を浮かべ、面倒臭いという内心を誤魔化しながら対応しているのが目に入る。
しょうがないわねぇ。
そもそも、私を見張っていたのを棚に上げて、人を糾弾する資格なんてないのに。
私の姿を見つけると、罠にかかった変質者が指を指して大声を上げる。
「あの女だ!! あの女とポラード神父はデキているんだ!!」
その発言に、ポラード神父が眉根を寄せた。
事の起こりは昨夜だ。
―― ついて来てるわね。
深夜。街のバーに顔を出して気分転換した帰り道。私の後をつける不審な男に気が付いた。
ここ最近変な視線を感じるので、ポラード神父が私を見張っているんじゃないかと勘違いをし、出がけに酷くタコ殴りにして出てきたのだ。
着替え中に視線を感じて、うっかり爪で胸を引っ掻き、切り傷を作ってしまったその八つ当たりもあった。
バーでカクテルを飲みながら、ちょっとあれはやり過ぎちゃったわねと血をダラダラと流していた彼の姿を思い出す。
それにしても、犯人はストーカーだったなんて。
粉雪が降る寒々しい夜なのに、余計に背筋が寒くなるモノを見つけてしまった。
だって、就寝時だけでなく、食事中や入浴中までも視線を感じるものだから、気持ち悪いことこの上ない。
教団の追っ手じゃないことは確かみたいだけど……。
もし追っ手なら、こんな下手な尾行はしない。もっと上手く後をつけてくるはずだし、足跡が残ってしまうような雪の日にターゲットを追跡するなんて証拠が残る真似はしない。逆に辿られて追い込まれてしまう可能性が高いからだ。
ということは、今私を追ってきているのは、素人のストーカーということになる。
―― ちょっと、下僕に悪いことしちゃったかしら。
心の片隅で蟻の歩幅ほどの反省をすると、教会へと急ぐ。
礼拝堂へと直接入れる表の扉は閉まっているから、裏の生活空間へと繋がっている戸を開けて帰宅した。
玄関でコートについた雪を軽く叩いてから歩き出す。
自分の部屋のハンガーにコートをかけて、ワンピース一枚の身軽な格好のまま部屋を出る。
そして手洗いを済ませると、キッチンに置いてある救急箱を手にポラード神父の姿を探す。
礼拝堂にもいないし、応接室やリビングにもいない。お風呂にもいなかったから、もう寝室へ引き上げたのだろうと、彼の部屋を訪ねる。
部屋の前に立つと、背後から視線を感じた。どうやら廊下の窓から私を覗き見ているようだ。
―― 私、今からこの部屋に入るわよ。
背後には目を向けずに心の中でそう呟くと、コンコンコンとノックをした。
室内から、聞き慣れたポラード神父の声がする。
背後の視線は消えていた。
きっと、この部屋の窓へと移動したのだろう。
私は「どうぞ」という返事を聞くと、ドアノブに手をかけて中へと入る。
「高杜さん」
どこをほっつき歩いてきたのやらと言いたげな目を向けたポラード神父は、風呂上がりなのかナイトガウンを身に纏ってタオルで髪を拭いていた。
―― あら、丁度良いシチュエーションね。
ストーカーに見られている前で、ポラード神父を下僕と呼んだことはない。
ならば。
私はそっとドアを閉めると、部屋をつかつかと縦断してベッド横にあるナイトテーブルに救急箱を置き、窓に引かれているカーテンを開け放した。
「外、月が出ているわ。雪が月の光を反射して、綺麗なのよ」
コソコソと、窓の外で身を潜める気配がした。
予想通り、こちらへ移動したわね。
私は気が付かないフリをして再びカーテンを閉め、窓から少し離れると、置いた救急箱を両手で持って少し視線を落とし、淑女らしく縮こまって見せる。
「その……さっきは申し訳なかったわ神父様。その……放置して逃げたりして」
反省しているかのようにしゅんとして見せると、ポラード神父は怪訝そうな顔をした。
「今に始まった話じゃないでしょう」
私は彼が余計なことを言う前に、救急箱を持ってポラード神父の前に立つ。
「だから、償わせて欲しいの」
「いいですよ、大したことありませんでしたし」
「それじゃ私の心が痛むわ。お願い、脱いでちょうだい神父様」
今度は何を企んでいるのかと顔に出ていたが、溜息一つついてベッドに座ると、ポラード神父がナイトガウンの前を寛げ、袖を抜いて上半身を露にする。
その所々に、夕方タコ殴りにした内出血が広がっていた。そして左上腕にはうっかり爪で突き刺した切り傷が残って、血流が良くなったせいか多少血が滲んでいる。
「こんなに……」
「このくらい、すぐに治るでしょう」
大したことないと傷口に目をやって軽く腕を上げるポラード神父はしかし、その痛みに小さく呻いた。
私は脱脂綿を取り出して消毒液に浸すと、その傷口に押し付ける。
「痛……ちょっ高杜さん、わざとですか」
「痛気持ちいんじゃないの?」
「そんな嗜虐的な趣味、持ち合わせてませんよ」
ある程度消毒すると傷口に軟膏を塗り、ガーゼを当てて包帯を巻き始める。
「そうなの? 私のハートを打ちつけたくらいだから、そういうご趣味がおありかと」
「それは……」
ヴァンパイア退治の基本でしょうと口にされる前に、私は言葉を被せる。
「ほら神父様、動かない。大人しくしてて。私慣れてないから加減が分からないわ」
あんまり緩いと解けてしまうわねと、ギュウギュウと包帯を引っ張る。
「そんなに締められたらきついんですが?」
「加減してるのに……このくらい?」
ちょっと力加減を緩めると、ポラード神父が頷いた。
「えぇ、そのくらいが丁度いいです」
くるくると巻き終えると、端を軽く縛って留めた。
そして、上半身に出来た内出血に目を向ける。
「こっちは……まぁどうしようもないわね。ちょっと冷やすくらいしか」
「見た目は赤くなっているので酷く見えますが、そのうち治ります。そんなに気にしなくていいですよ。高杜さんも、怖かったんでしょうし」
あら、一応視線に怯えて冷静な判断ができなかったんだろうと気にかけてくれるのね。
かけられた優しい言葉が嬉しくて、私はうっかり笑んでしまった。
なら、無理だろうけど譲歩する姿勢は見せてみようかしら。
「えぇ、怖かったわ。でも流石に酷かったと思うから……食べる?」
そう言ってワンピースの肩ひもを片方、肩から落とし、首筋を噛みやすいように晒す。
―― まぁ、まだ人の血を飲むのは生理的に受け付けないみたいだけど。
絶対噛みつかれたりしないと分かっているから、安心してこんないたずらもできる。
「いえ、遠慮します」
ほらやっぱり。いくら体がヴァンパイアになったって、心がまだその事実を受け入れられてないんだわ。
窓の外で、身じろぎした気配がした。
―― もうちょっと、かしら。
「ちょっとくらい、味見してみたらどうかしら? 妬く前に」
私はポラード神父の肩に両手をついてベッドに片膝を乗せると、屈ませた身体のバランスを取って、彼が私の首筋を噛みやすいように上半身を近づける。
それは外からカーテン越しに見たら、抱き合っているように見える形で。
「高杜さん」
耳元で囁かれるようにポラード神父の声が聞こえて、私は思わずバランスを崩した。
それに驚いたポラード神父は、支えようと私を抱きしめるけれど、左腕に力が入らないのか支えきれずにそのままベッドに押し倒される。
「……何してるんですか、貴女は」
呆れたような声が、私の下から聞こえた。
人肌の温かな体温が。ドクンドクンと動く心臓の鼓動が、私の頬に、耳に感触と音を伝えてくる。
はっとして腕に力を入れ、肘を支点に上半身を起こすと、思いの外間近にポラード神父の顔があった。
「……っ!!!!!」
思わず肩を握ったままの手に力が入る。
「痛っ……高杜さん、そこ、そんな強く……」
「あ……ごめんなさ……」
慌てて手を離すと、再びバランスを崩してそのたくましい腕の中に飛べない鳥のように落っこちる。
さすが戦闘部隊にいた神父だ。鍛え上げられた無駄のない筋肉が、私を受け止めた。
「怪我人の上で暴れるの、やめて下さい」
「暴れてなんて……」
「ちょっと大人しくしてて下さい」
そう言って動く右腕で私の肩を抱くように支えると、勢いもつけずに起き上がった。
顔がほてったように熱い。
「高杜さん……その、服の肩ひもが……」
言いにくそうに肩を、というよりも服を押さえるように腕を回したままのポラード神父は、目線をそっと窓の方へと向けて外した。
指摘されて目を向けると、自分でずらしたのとは反対側の肩ひもまで肩から落ち、オフショルダーの服がベアトップ状態になっている。ただし、ベアトップのように胸元で留まるよう作られていないので、このままだと落ちてしまうのだが。
慌てて胸元を押さえて肩ひもを肩にかけると、ポラード神父はそっと腕を離した。
「……見たの?」
「神に誓って、見てません」
信仰を捨てた神父が神に誓ったって、信じられるはずがない。
「今なら怒らないわよ」
「……そもそも、何だってそんな露出度の高い服ばかり着るんですか、貴女は」
「可愛いじゃない? 隣の国の最新のファッションよ」
「この国にはまだ浸透してないんですから、誘われてると思う男が出ても不思議じゃありませんよ」
「そんな男目線の考えなんて知らないわよ。勝手に勘違いしたのが悪いわ」
「だからストーカーに狙われたんでしょう。さっきまで外にいた気配、貴女をつけて来たのでは?」
ちらりと目を窓に向けたポラード神父の視線を追うように、私も窓へと目を向ける。
「気付いてたの?」
「何か気配がするな、とは。でも、魔物や教団の人間にしては少々どんくさい感じがしたので、素人かと思って放っておきました。まぁ、高杜さんを今後もずっとストーカーし続けて、ヴァンパイアだとバレても厄介ですし」
―― 協力してくれてたの? ストーカーを追い払うために?
心の準備なく向けられた優しさに、思わずときめく。
「もう休みましょう。とりあえず今日は、覗かれることはないと思いますから」
「そうね。お風呂に入って来るわ」
そして私は、安心しきって休んだのだ。
これでストーカーに怯えなくて済む。そう思って。
しかし、事件はこれで終わらなかった。
翌日。街の治安維持を担当している信者達が、こぞってやってきた。
昨日のストーカーを筆頭にして、である。
「ですから、それには事情が……」
ポラード神父が祭壇の傍で困惑顔を浮かべ、面倒臭いという内心を誤魔化しながら対応しているのが、目に見えて分かった。
「あの女だ。あの女とポラード神父はデキているんだ!!」
「違います。彼女は私の怪我の治療をしてくれただけです」
さすがのポラード神父も眉根を寄せて、呆れた様子で答える。
「お前が高杜さんを付け回したりするから、面倒事になったんだ」と目は口ほどに物語っていた。
「そんなの詭弁だ!! 俺は昨晩聞いたんだ!!」
「何を聞いたんだ?」
信者の一人が、そう問うた。すると男は、聞いて驚けと言わんばかりに得意気に喋り出す。
「いいか。この女がポラード神父の寝室へ行って言ったんだ。「償わせて欲しいの。それじゃ私の心が痛むわ。お願い、脱いでちょうだい神父様」って」
まさか神父様がと、ザワザワと信者達の間に動揺が走った。
「ポラード神父は、「そんな嗜虐的な趣味、持ち合わせてませんよ」とか言ってた。でも、この女のハートを射抜くようなことしたんだろ?」
えぇ、躊躇うことなく私の心臓に杭を打ち付けたわ。この神父様。
と心の中で思っていると、「まぁポラード神父、見た目は良いから……」と、そこは信者達が曲解して納得した。
「話を聞くに、この女は一昨日の夜、この神父に身を捧げたんだ。でも、途中で背徳感に苛まれ、逃げ出した」
ヴァンパイアに背徳感。何に対してかしらと意地悪く私は思う。
「それでお前、何で二人がデキてるなんて思うんだ? そもそも、そちらのお嬢さんが一昨日の夜、貞操を汚したなんて分からんだろう?」信者の一人がそう声を上げると、男は自信満々に言い切った。
「この女の胸に、キスマークがあったんだ!!」
それは動かぬ証拠だとばかりに、信者達が絶句する。
その反応に気を良くした男は、饒舌に唾を飛ばしながら喋り始めた。
「この女が、「私、慣れてないから加減が分からない」と言うと、ポラード神父が「そんなに締められたらきつい」と言ったり。「高杜さんも、怖かったんでしょうし」とポラード神父が気遣う素振りを見せたら、この女は「えぇ、怖かったわ。でも流石に酷かったと思うから……食べる?」って聞いて」
おい、それは……と、信者達の間に動揺が走る。
男は更に、こう続けた。
「ポラード神父が遠慮すると、女は「ちょっとくらい、味見してみたらどうかしら? 妬く前に」と迫ってた。そのあと聞こえてきたのは、ベッドに倒れ込む音と、ポラード神父の色気のある声と、女の謝る声。その後、「怪我人の上で暴れるの、やめて下さい」という神父の声がしたと思ったら、「ちょっと大人しくしてて下さい」と女に注文をつけていた。こんなやりとり、どう考えたってお楽しみ中だったとしか……!!!」
動揺しまくりの信者達が、ポラード神父を責めるような目で見やる。
面白いことになってきたわと、私は心を躍らせた。
これは、遊ばない手はない。
私はか弱い娘の振りをして、「ごめんなさい」と小さな声で謝る。
次いで、出てもいない涙を拭う振りまでして見せた。
ポラード神父の、「勘弁してくれ、これ以上状況を悪化させるのは」という推測で聞こえて来た心の声は無視をする。
「私が悪いの。神父様は私を慰めて下さっただけだわ」
私の訴えに、信者達がポラード神父の胸倉を掴み上げる。
「あんた、聖職者だろう!! こんな幼気な娘を手籠めにするなんて!!」
「誤解です。落ち着いて下さい。順を追って説明しますから」
胸倉を掴まれたまま、今にも溜息をつきそうなポラード神父はしかし、声を荒げることなく落ち着いて対応する。
「いいですか。まず、高杜さんは元気そうに見えますけど、ちょくちょく酷く体調を崩す病人です。昨日は結構元気でしたし、少々喧嘩もしましたので、どこかへ気分転換に遊びに行ってしまったようですが……」
その落ち着き払った声に、信者達は静かに聞き入る。
「彼女の言った、「償わせて欲しいの。それじゃ私の心が痛むわ。お願い、脱いでちょうだい神父様」というのは、その喧嘩の時、高杜さんが錯乱してナイフを投げてきたのが、私の左上腕を掠ったので、血が結構出たのです。そのことを言っているんですよ」
そう言って、袖をまくり上げて包帯の巻かれた左腕を見せる。
「それで、高杜さんが怪我の手当てを申し出てくれたのですが、これがまた何というか、普段看護されてばかりなので酷くて。傷の消毒は、消毒液を浸した脱脂綿をぐりぐりと傷口に埋め込むかのように押し付けるわ、包帯を巻かせたら力いっぱいきつく巻くので、血が止まるわ……」
はあぁと思い出したかのように、これ見よがしに溜息をついて見せた。
ちょっと。私、怪我の治療一つ出来ない女みたいじゃない。
「ハートがどうのと言ったのは、先日、彼女に悪魔が取り憑いたようだったので、悪魔祓いしようとナイフで胸元に十字傷をつけようとしたことでは?」
悪魔祓い。と、信者達が真っ青な顔をする。
「色々あって、高杜さんは最近私を殴って下さる回数が多いので、彼女なりに心配して、生食用の肉を買ってきてくれたんですよ。血肉を補充するには、肉は効果的ですから。食べると聞いてきたのは、その肉のことです」
肉。と、信者達の口がぽかんと開く。
「まさか夜中に生肉を食べろと言われると思わなくて遠慮したんですが、焼く前に味見したらどうかと言うので……高杜さん、料理の腕も慎ましい方だものですから」
つまり、マズイと言いたいのかと、私はポラード神父をちょっと睨みつける。
「あとは……ベッドに倒れ込む音、でしたか? あれは高杜さんが、私の腕が上がりにくいことを気にして、上着を着せようとしてくれたのですが、あのヒールの高さでおおちゃくしたので、バランスを崩して転びかけたんですよ。それを支えようとして、まぁ、腕がこんなですから、支えきれずに二人して倒れ込んだというのが真相です」
疑惑は見事に晴れた。
信者達は男の破廉恥な勘違いに、冷ややかな目を向ける。
同時に彼が、私を覗き見ていたことが明るみに出たのだ。
全てが解決したかに見えたがしかし、ポラード神父はこれで良しとはしなかった。
「あぁ、先程聞いていて思ったのですが、どうして高杜さんの胸にナイフで傷つけた切り傷があることをご存知だったんです? 悪魔祓い中、暴れられて手元が狂い、脱がなければ分からないような位置に横に一筋傷がついてしまったと思いましたが。……そういえば、数日前から高杜さんが視線を感じると言って怯えたり、私も人の気配を感じることがままあったんですが? まさか、彼女が入浴中にも視線を感じると言っていた視線は、貴方の……?」
ポラード神父の指摘により、この男がストーカーだということが証明され、信者達が縄をかけて連れて行った。
犯人も捕まって、これにて一件落着となったはずだが、気になるセリフをポラード神父は口にしている。
「ねぇ下僕。貴方昨日、見てないって言ったわよね?」
服を着る時に、胸のトップ少し上に、爪で引っかき傷を作ってしまったその傷を、何故ポラード神父が知っているのか?
本人が口にしたように、脱がなければ見える位置ではない。
「不可抗力です。その傷より下は見えていませんから、安心して下さい」
「安心とかそういう問題じゃないわよ!!」
武器である爪を伸ばして、切り裂きにかかる。
「悪魔祓いが必要ですかね」
ひょいっと、余裕綽々で私の爪を避ける。
「このロクデナシ神父!! 神に誓って平然と嘘ついて!!」
「殉教しましたし、そもそも神を信じていないので」
「このっっ!!」
袈裟懸けに振り下ろそうとした腕を、ポラード神父が右手でパシリと掴み、そのまま祭壇の上に押し倒される。
片手だけで押し倒されてしまったその力の強さに、彼の肉体がヴァンパイアとしての力を手に入れていることを実感した。
「全く。またそんな露出度の高い服を着て暴れて。見えますよ?」
「今日は首に紐をかけているから、昨日みたいに落ちたりしないわ」
「成程。では試してみましょうか。その紐を解いたらどうなるか」
「……は?」
「落ちないんでしょう? なら心配は要りませんよね?」
そう言って、私の首筋に手を伸ばす。
「何考えて……」
恋人でもない人に、この紐を解かれるなんて……。
私が思ったことが、どうやらポラード神父には伝わったようだ。
「ほら、信者達は、私と高杜さんがデキていると勘違いしているようですから、問題ないのでは?」
首筋の紐に、その手がかかった。あとは、この紐を引くだけ。
「さ、さっき、その誤解解けたわよね」
「大っぴらに愛人作る神父なんて、いるわけないでしょう?」
にっこり、悪魔の笑みを向けて微笑んだ。
悪魔祓いが必要なのは、この神父では? と私を押さえつけるポラード神父を見て思う。
「着替えるわ。下僕。離しなさい」
そう言うと、案外あっさりと離してくれた。
祭壇から降りて礼拝堂を後にしようとすると、ポラード神父の声が背に届く。
「高杜さん。貴女だって一応女性なんですよ。気を付けて下さい」
やっぱり心配してこんなこと……?
うっかりそう思いかけたが、余計な一言がくっついていたのを思い出した。
「一応?」
「ヴァンパイアですから、普通の男にはまず負けないでしょう?」
前言撤回。
何だか腹が立ったので、私は指を鳴らして可愛い子達に合図する。
キィキィと甲高い鳴き声を上げて、蝙蝠達はポラード神父に襲い掛かった。
「痛っっ!! これ以上怪我増やすのは……」
「下僕、やっぱり反省なさい」
ピシャリと言いおいて、礼拝堂を後にする。
廊下に出ると、思わず頬に手を当てた。
ドクドクと、鼓動が耳元で鳴っている。
―― 心臓に悪いわ。
暫く、露出度の高い服はやめようと、思ったのだった。
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