第六回 人はなぜ苦しみながら達成する人を見ると勇気づけられるのか

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第六回 人はなぜ苦しみながら達成する人を見ると勇気づけられるのか

 すでに夕方の五時。夏とは一変、この時間はすでに暗い。ただ、ランニングしている人の姿はまだまだよく見かける時間だ。  最近は新型感染症などの話題があり、人はいつもより少なく、いつもいる二人もマスクを着用している。時代だ。 「……久しぶり、だねー」 「ああ」 「僕が自宅学習でさー、なかなか外に出られなくって。親が必要以上に新型ウイルスを怖がってるせいでまともに僕も外に出れないし」 「それは、まあ、しょうがねぇよ。お前がいなくて俺は正直寂しかったぞ?」 「へぇ、意外に寂しがり屋なんだ」 「……んまあ。どうしても人肌が恋しくてよ。俺じゃ恋人なんかできねぇし」 「生涯独身貫けないジャン」 「貫きたくねぇわボケ」 「まあ、とりあえず久しぶりだし、僕からさせてもらうよ~。さあ!始まりましたブランコらじお!本日のお便りは光石ほのかさんから頂きました」 「……女子ばっかりだな」 「……。〈真面目にいいですか?〉いいですよー!〈今年は無いのですが 「チャリティー番組のマラソンから解く。人はなぜ苦しみながら達成する者を見ると勇気づけられるのか」 です〉ふむふむ。新型ウイルス失せろだね、マジで。〈ちなみに私はアレが苦手で、苦しい姿や弱い姿を見られるのは嫌です〉へぇー。そうなんだ。〈楽しみながら達成して行くヒトの方がすきなんです〉なるほど!楽しみながらか~!〈日本人は未だ、苦しみながらと言うのを美点と思っているのでしょうか〉、というお便りです!ありがとうございます!」 「俺の言葉無視しやがって」 「精一杯の美少女ボイス聞き逃さないでくれる?」 「聞いてたから大丈夫だ」 「じゃあ、話を始めよう。僕はこの意見に賛成かな。だってわざわざ苦しいところを見てもこっちが辛くなるだけだし……」 「残念ながら俺は反対だ」 「えー。なんで?」 「楽しみながら達成できる人なんて世の中少ねぇだろ。どう考えったって辛く、努力しても報われず、あがいているのに気づかれず、中には日の光すら当たらずに生涯を終える者だっている。そういう人たちの方が世の中多いだろ。お前だって親から耐えて、学校でのいじめも耐えて、成績をキープして。楽しんでるか?」 「楽しんではないね」 「そんな赤の他人の楽しんでいる姿を見てお前はどう思う?楽しんで達成できて羨ましくないか?なんでそいつは楽しみながらそれができるんだ、とイライラしないか?」 「……まあ、確かに。この辛さを知らないのに、なんで達成できるんだよ、とかは思うかも」 「つまり、自己投影できないんだよ、楽しんで達成している者を見ても。努力している人が多い中で、努力して辛い思いをしている人が多い中で少数の楽しんで達成できた人を放送してどう思われるか。イライラする人の方が絶対に多いだろ。だってよ、自分の努力が否定されてるような気がしねぇ?楽しんだもん勝ち、楽しんでもできるんだよ、このくらい、とか見せられたら今までしてきた俺らの努力はどうなるんだ。報われないし、無駄だとか言われてるような気がしねぇ?そんなの嫌に決まってるじゃねぇか」 「でもさ、楽しんで達成している側も努力してるじゃん」 「……じゃあ、例を言う。例えば百メートル走のタイムを上げたくて努力している人がいるとする。今、彼は柔軟をしている。『いだいいだいいだいいだいいいいいいいいッ!』と苦しんで叫んでいる人と、『……痛いけど……楽しいからやれる!俺はやれるぞおおおおおおッ!』って言ってる人がいたら、どちらに共感する(・・・・)?」 「共感(・・)?」 「ああ。見ていて楽しいのは明らかに後者だろう。反応が想像しているのと真逆で発想の意外性、というところから笑いはとれるだろう。だが、某番組やほのかちゃんが回答で求めているのは『より勇気づけられる』ということだ。そこに必要なのに共感だろ、楽しさよりも」 「確かに楽しそうにしているのを見て勇気づけられる気はしないなぁ。いじめに関しても楽しそうにいじめられているいわゆるMの方々を見ても勇気をもらえられるわけじゃないし」 「俺から何でもこなすお前を見ても勇気づけられることはない」 「それは……悲しいような、悲しくないような。まあ、確かに共感しなければ勇気づけられることはないかも。この人も楽しくやってるから僕も楽しくやっていこう!とはあんまりならないかもなぁ。これからこの人みたく楽しくやろう!と思っても後ろを振り返れば今まで辛かったことがあって今の自分がいるわけだし、何とも言えないかも……」 「それで?」 「共感するのは前者かな」 「だろ?自分も絶対にこうなる、とか辛い努力は自分に投影しやすい。日本人は自己肯定感が低い人種として有名だからな。マイナスな感情の方が自分の中に根付きやすいんだろ」 「でもさ、でもさ、辛い努力をしてる人を見てると悲しくなってくるし、これ以上しないで!って思うんだ。それと、辛い努力をして達成するってどうしても綺麗事に見えてしまって。なら楽しい努力で達成してくれる方が夢幻みたいでファンタジーを見ている感じで見れるし」 「ふうん。これ以上しないでって思うのは努力している自分を認めてほしい、これ以上辛い思いをする前に止めてほしいとか思ってるからじゃね?」 「え」 「誰だってできることなら努力したかねぇだろ。それこそ俺に仕事を預けるやつみたくな。これだけ頑張ったから自分は終わりにしてもいい、もう十分だ、って思いたいんだろ」 「……」 「綺麗事に見えるのは自分じゃ成し得ないと思うから。どんだけ努力しても沼に引きずり込まれているようでゴールの光が見えないから。達成するためのピースが足りないせいでゴールを見ることすらできないから全部が夢みたいに思えてしまい、そこから一番近かった辛い努力をして達成している人、というのを見ると綺麗事に思えてしまう。同じように努力しているのになぜ天と地のように離れているのかと思ってまた沼にはまってしまう。……昔の俺だ」 「……ッ」 「でもな、ピースさえ見つければかすかに光が見えるんだ。俺の場合はたまたまお前で。そのおかげで俺は世の中の成功している人を見ても綺麗事だと思わなくなった」 「……」 「だからもう、辛くはないんだ。例え辛い努力でも」 「……どういうこと」 「確かに今、俺は辛い。だけどな、辛い努力をしている人はたくさんいる。その中にたまたま成功している人がいるんだ、となんとなく思い始めた。辛い努力は報われるんじゃなく、傍に寄り添う人を作ってくれた、と思えるようになったのさ」 「じゃ……ぁ、」 「某番組のマラソンだって別に達成しているところを見て勇気づけられてるんじゃない、少なくとも俺は。あれはわかりやすく努力をしている人が目の前にいて、この人も辛く努力してるんだから俺も頑張らないと、と思うだけだ。頑張ってこの人も成功したから俺も頑張らないと、っていうわけじゃねぇんだ。達成するか否かは関係ない。そこに辛い努力があるから勇気づけられる」 「……じゃあ、日本人は苦しいことを美点とみなしてるとでも思ってるの?」 「別に。辛い努力を美しいものなんて思わんだろ。ただ、自分がしていることが美しいものだったと思いたいから美点だと思ってるだけじゃね?」 「身近に美しいというものがあってほしかった……?」 「さっきも言ったように日本人は自己肯定感が低い。だからこんな自分にも美しいところはあるはずだ、あると思いたい、っていうことから自分が頑張ってるところを美点と思い込んでいる(・・・・・・・)だけで傍から見りゃあ、他人の美点なんていくつも挙げられる。ただ、辛い努力を美点として挙げないだろ?頑張ってるところがすごい、とか言われたら誰だって嫌じゃねぇか。上辺だけで褒められているようでさ」 「つまり、自分が辛い努力を美点だと思っているから辛い努力は美点であって、他人から見たらそれは美点ではない。ただ、みんながみんな辛い努力は自身の美点であると思っているからそれの見方が広がり、なんとなく苦しみながらというのが美点だと思えてきた、とでも言いたいの?」 「うまくまとめてくれてサンキュ。そういうこった」 「……なんかもう、ずるいよ」 「……柄でもねぇこと話したな」 「その話を聞くと僕からじゃ反論できない」 「なんか悪いことしたな、すまん」 「……いいよ、別に。気にしてない。ただ、楽しみながら達成するのもいいと思うだよね」 「まあな。見ててすっきりするし、達成できなかった時も不完全燃焼とはならないし、何よりこっちも楽しくなってくる」 「でしょ?辛いのがすべてではないと思うんだ」 「当たり前だろ。そんな世の中じゃ、今頃崩壊してるっつーの」 「んじゃ、まとめるね。日本人はなぜ苦しんでいる姿を見て勇気づけられるのか。その答えは共感出来て傍に似たような人がいると安心できるから」 「そんなこと一言も言ってねぇけどよくわかったな」 「何となくニュアンスでわかったよ、あの時」 「ありがとな。それと日本人は苦しみながらを美点としているか否かについては自分が美点だと思いたいことがその境界を超えて大衆化したから。まあ、俺はまとめるの下手だからさっき昴が言ってたのが一番いいだろ」 「まあ、ほのかちゃんの望むような回答じゃないかもしれないけど、僕らはこんなふうに思ってる。ただ、楽しみながら達成するのを見るのが嫌というわけではなく、勇気づけられるのはどちらか、っていうのを考えてるってことデスネ」 「んじゃ、宣伝コーナーよろ」 「下のリンクをどうぞ!あ、ちなみにもうもう一個ほのかちゃんからお便りもらったんだ。この後じゃあ遅いから僕は帰るけど、明日また話そう!」 「ああ」  努力とは何なのだろうか。勇気づけられるとは何なのだろうか。救われるとは何なのだろうか。その答えは二人は見つけようともしなかった。 おたよりをくれた方のコーナー。 アカウント:光石ほのか https://estar.jp/users/239846624 宣伝作品:『桜塚駅二番ホーム』 https://estar.jp/novels/25607441 宣伝作品: その他の宣伝:Twitterアカウント https://twitter.com/honokaMitsuishi?s=09 その他の宣伝: 頂いたおたよりの内容: 真面目にいいですか? 今年は無いのですが 「チャリティー番組のマラソンから解く。 人はなぜ苦しみながら達成する者を見ると勇気づけられるのか」 です。 ちなみに私はアレが苦手で、苦しい姿や弱い姿を見られるのは嫌です。 楽しみながら達成して行くヒトの方がすきなんです。 日本人は未だ、苦しみながらと言うのを美点と思っているのでしょうか。 新たな出会いを生むために皆でリンクをタップ!
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