イエロー

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イエロー

「俺たちは銀行強盗だ」 イエローは笑えなかった。 これから仲間を殺すと思うと憂鬱だ。 銀行内を見回す。 レッドはカウンターの上に立ち、銃口をあちこちに向けて銀行員を威嚇している。 ブルーは支店長の背に銃を突きつけて、奥にある金庫に向かっている。 計画通りに進んでいる。 なんで、こんなことになったのか思い返してみる。 「ねぇ、あなた。アタシと銀行強盗やってみない?」 最初、俺が話しかけられているなんて思いもしなかった。 今までに見たこともない美人がそこにいたからだ。 俺には一生かかっても話しかけられないような遠い存在の美人が、俺に声をかけてくれている。 返事も出来ずに、ただ見惚れているだけだった俺に向かって、 「ねぇ、どうなの?」 って、顔を覗き込まれたら、 「お、俺で良ければ!」 と答えるしか俺にはできなかった。 アジトに誘われ、レッドとブルーを紹介された。 俺1人では不安だったから少しは安心したけど、 「2人で逃げよぉ」 2人きりの時にピンクに言われて、ビビってしまった。 「イエローが殺れなかったら、アタシが殺るから大丈夫よ」 って、見透かしたようにピンクは言ってたけど、そんなカッコ悪いこと出来ない。 ちゃんと、俺が2人を殺す。 レッドとブルーを2人同時に始末するなんて、俺には難しい。 だから、2人には同士討ちを期待した。 2人それぞれに疑惑を与えておけば、お互いに殺り合うと思った。 もし、どちらかが生き残っても、1人だけなら俺にでも始末できるだろう。 レッドには 「ブルーは警察と繋がっている。俺たちを囮にして自分だけ逃げる気だ」と。 ブルーには 「ブルーが警察と繋がっているとレッドが疑っている」と。 ブルーが金庫から金を持って帰ってきた。 すると、レッドがブルーに銃口を突きつけた。 すかさず、ブルーもレッドに銃口を向ける。 お互いに銃口を突きつけ合って睨み合っている。 空気が凍り付いたような、一瞬も気の抜けない緊張感が張り詰めている。 願ったりの展開だ。そのまま、同士撃ちしろ。 と、心の中で思っていたが、何もしないのも不自然かなと 「おい、お前ら、何してんだよ」 と声をかけると、 しばらく、睨み合っていた2人は 「そうだな」 「こんなことしていても意味はない」 と、2人同時に銃をおろした。 え?そんなつもりじゃなかったのに。俺の計画が台無しだ。 さあ、どうしようかと思っている間にもレッドとブルーは金を詰めたカバンを持って裏口に向かっている。 仕方がない。 あとは、裏口を出てからピンクの車に向かうまでの間に2人を仕留めるしかない。 最悪の事態だ。 しかし、こういう事態も想定していた。 俺には取柄はない。だから、2人には馬鹿にされている。 それを利用してやる。 2人を殺るためには、油断させておいて、至近距離から一発で仕留めないとダメだ。 出来なかった時は、俺が殺される。 2人のすぐ後ろをついて行き、裏口を出た所で盛大に転んだ。 カバンのチャックを開けておいたので、中の札束が路地裏にバラ撒かれる。 2人は俺の失態に気付くと、慌てて近寄ってきた。 「何やってんだ」 「おいおい、勘弁してくれよ」 と言いながら、札束を拾っている。 札束を拾うために下を向いている2人の背後に立ち、まずはブルーの後頭部に一発。 驚いてこちらを見上げたレッドの眉間に一発。 路地裏には札束と2人の死体。 俺にも出来た。 緊張で息が荒くなってしまったけど、達成感があった。 俺とピンクの分のカバンだけ持って、ピンクの待つ車へ向けて走った。 ピンクのページへ。 https://estar.jp/novels/25634502/viewer?page=7
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