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その時、ノックもなしに倉庫……じゃなくて、部屋のドアが勢いよく開き、僕は反射的にドアに目を向けた。
そこには、まるで鬼瓦のような顔立ちの、坊主頭の男が仁王立ちしていた。怒っているような、あるいは驚いているような、なんとも言えない表情をしている。
あ、そっか。部外者の僕がいるから、こんな変な顔をしているんだと思い当たり、慌てて立ち上がった。
「あの、僕──」
鬼瓦さんの、人差し指を突き出した手がゆっくりと持ち上がったが、その指は僕ではなく、椎野さんを示していた──否、示そうとしていたのだが、指先が椎野さんを捉えるより先に、明智さんがぶん投げた六法全書が鬼瓦さんの顔面に「ぼふっ」とヒットした。
「あー、すまない、手がすべった」
六法全書は3秒ほど鬼瓦さんの顔面にとどまったのち、どさりと足もとに落ちた。大きな衝撃に焦点の定まらなくなった鬼瓦さんの目が再び光を得たと同時に、鬼瓦さんの顔はみるみる不動明王みたくなった。
「あぁ~けぇ~ちぃいいいっ!」
「椎野、下でコーヒーを買ってきてくれ」
「はあ? テメエで行けよ」
「巷にこっそり出回っている椎野が主人公のBL本(R18)を、ネットで売──」
「そこに座って大人しく待っていやがれ」
唖然とする僕の前を通って、椎野さんがものすごく不機嫌な顔で部屋を出ていった。入れ替わるように、不動明王さんが明智さんのもとにずかずかと近寄る。
「おい明智、いきなり辞書なんか投げつけやがって」
「いいか志馬。椎野の頭を見たか?」
「え? ああ、なんか生えてたな」
「椎野はアレの存在をコロッと忘れている。アレをつけたまま、いつもの仏頂面で署内を闊歩とか、面白くないか?」
「……面白いな」
二人は互いにニヤリと笑みを浮かべる。まるで時代劇に出てくる悪代官だ。志馬と呼ばれた不動明王さんは、薄気味悪いニヤニヤ笑いを顔に貼り付けたまま、明智さんにくるりと背を向けて、自分のデスクについた。
その背を何気なく見ていた僕は、思わず悲鳴を上げそうになった。
志馬さんの尻からシッポが生えている。それも、ネコとかイヌみたいなのじゃなく、ちょこんとまあるいウサギのシッポだ。しかもピンク。
懸命に悲鳴を呑み込んだ僕に、明智さんが自分の口に人差し指を当てて「しーっ」とやってみせた。
……もう、何がなんだか解らない。久我班というのは、怨霊とネコとウサギで構成されてるのか?
⇒https://estar.jp/novels/25650637/viewer?page=17
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