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その人影を見た僕は、無意識に椎野さんの背中に隠れた。
みんなが固唾を飲んで見守るなか、キャビネットのなかから、ずるり、ずるりと姿を現す──ソイツは、濃紺のスーツに身を包んだ、ひどく大柄な男性で、よくこんな狭いところに入ってたなぁと……
扉から顔が半分覗いた。狭いところに無理やり入っていたせいか、髪がボサボサだ。
……ていうか、誰?
「貴様……そんなにくっつくな!」
キャビネットの亡霊が、大声で怒鳴った。怒鳴ったのだが、なぜ怒鳴ったのか理由が不明だ。
「貴様だ、そこの、ひょろっこいの!」
うん?
気のせいか、僕と目が合ってる気がする。
「貴様、とっとと椎野君から離れろ!」
「おいコラ待て、班長様、計画が台無しじゃねえか」
………え?
班長様………?
え、もしかして、この人が、僕の遠い遠い親戚の、久我亮衛……?
え、行方不明なんじゃなかったの?
椎野さんに怒られて、ほんのちょっとしゅんとした、行方不明の筈の久我亮衛が、ずるずるとキャビネットから出てきた。
「計画って、だってソイツが、あまりにも椎野君に引っ付くもんだから──」
ごにょごにょと言い訳する久我亮衛の鼻から、つうっと鼻血がひと筋……。
「あ、鼻血」
それを見た明智さんが、無遠慮に指を差す。
「あ、ああ……だって椎野君が、あまりにも可愛──ぶっふぉおおっ!」
久我亮衛の顔面に、ものの見事にボックスティッシュの箱が勢いよくヒットした、しかも角。
「すみません、手がすべっちゃいました」
しれっと志馬さんが言い放つ。よく手がすべる人たちだ。
「それであの……これは一体どういう事なんでしょうか……?」
訳が解らない僕は、一番マトモに見える椎野さんに尋ねた。ネコ耳ついたままだけど。
「ああ、タネ明かしするか」
椎野さんは、やっぱり変わらない表情で、どさりと椅子に座った。
⇒https://estar.jp/novels/25650637/viewer?page=21
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