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「君、“ペクチブ”で小説書いてるよね?」
「ブフォーッ!!」
僕の代わりになんとも盛大に噴き出したのは、志馬さんだった。
「なっ……ななっ……なんで班長が“ペクチブ”を知って──」
「なんでも何も、志馬君、自分のスマホからしょっちゅう“ペクチブ”のページを開いてるじゃないか」
「なに覗いてんすかあっ!」
「だって見えちゃうんだもん」
「“ペクチブ”って何だ?」
椎野さんがもっともな質問をした。流れからして僕が答えるのかと心臓がバクバクしたが、明智さんがすっと前に進み出た。
「アマチュアの漫画家や小説家が無料で自分の作品を公開できるサイト。内容はオリジナルから二次創作まで多岐にわたるが、“ペクチブ”は二次創作が主流だな」
「二次創作?」
「自分の好きな漫画やアニメのキャラクターを用いて、あんなことやこんなことを妄想したもの。そのほとんどはBL。まあ簡単に言うと、定期的に開かれる東京インターナショナル展示場での同人誌イベントを、ネット上でやってるみたいな感じだ」
「へえ」
一応「へえ」と返してはいるが、既に椎野さんの興味は削がれた様子だ。
と、くるりと明智さんが僕のほうを向いた。
「あなた、“ペクチブ”で何か作品を公開しているの?」
キタ━━━━━。
「してるよね、“ゆーみゃん”て名で」
久我さんの目がキラキラしている……。
「“ゆーみゃん”の二次創作ものも確かに面白いんだが、私は彼の書くオリジナル萌え小説が好きでね。ある作品で、どうも私の叔母の兄の長男の従兄弟にそっくりな登場人物が出てきたから、あれ?と思って、ちょっと私の独自の闇ルートで“ゆーみゃん”を探ってみたら、君だったという訳だ」
もう、言い逃れはできない……僕はガックリとうなだれた。誰にも秘密にしてきたのに。萌えを求めて某電気街をさまようのにも、完璧な変装をして行っているというのに。
「あの……」
おどおどとした志馬さんの声に、僕は病気の魚のような目を向けた。そういや志馬さん、“ペクチブ”を頻繁に覗いているんだっけ。もしかして──。
⇒https://estar.jp/novels/25650637/viewer?page=29
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