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マジ万字企画 【24年3月3日】
今回は猫森さんの作品を見て行きます。
形式としては連作なので1話毎にエピソードがあるタイプの流れです。
1~4部に別れているので、それぞれで見て行きます。
その前に、まずは総評から。
※今回、今までコミュの方で話していた事の補足も含むので、かなり細かく、かつ、めっちゃ長いです。
【総評】
文章に拘りがあって面白かったです。力の入った地の文や、心の声の入れ方等にも工夫があり、その点ではほぼ出版できるレベルで書けていました。
また、時代背景なども調べが成されており、十八世紀のフランスの様子や歴史背景など、生き生きとした筆のノリで書かれており、ここが好きなんだという意志、作家の顏が見えて良かったです。
反面、構成部分に不足があり、特にストーリー性、ドラマ性、テーマ性という物語根幹部分での甘さが目立ちました。
またテンプレの活用方法も具体性が無かったので、「ん? これはどういう事?」みたいな部分が事実としてありました。
ヴァンパイアの設定で例を上げると、通常「ヴァンパイアは日の光に弱い」というテンプレ設定があり、これを利用されているのですが、具体的にどうなるのか? って、作品毎に異なります。本作ではどうなるのか? の説明は必須です。なぜなら、それが物語のオチだから。オチでなければ不要ですが、最後に使うのならば説明は必須。
少々話が横道に逸れますが、気になった部分で、会話で説明しすぎていると思いました。
回想がほぼモノローグですし、重要な部分も二人で向き合っての会話や、地の文での説明でした。
後で詳細は述べますが、モノローグでの説明などは演出の一つで、これ自体が駄目では無いですが、作中で何度も使われると「他のやり方はなかったのかな?」と感じさせられてしまいます。
演出方法、アイディアを捻り出すのは作家の仕事のうちでも重要な項目なので、安易に地の文、説明台詞で解決してしまうのではなく、演出でエピソードを作る試みもして欲しいです。
話を戻し、ヴァンパイアの「日の光」説明での例を上げます。
「【アニメ】バンパイアハンターD(原作小説「D―妖殺行」)」という私の大好きな作品では、野党に襲撃された人間の恋人(女性)を、バンパイアが助けにきます。本来、人間とバンパイアは敵対関係にあるので禁断の愛です。バンパイアは日の光で体が日に溶かされて蒸発しそうになりながら、女性を助けます。
作中屈指の名シーンですが、ほんの数分のこのシーンだけで「バンパイアは日に当たると体が焦げで蒸発する」と「禁断かつ命がけの愛」とを二つ同時に説明しています。しかも、説明台詞ゼロでそれを具現化しています。
こういう設定をエピソードとして表現するのはとても難しいです。ですが、プロアマの決定的な差も、こうした表現に行きつけるかどうかでもあります。
上述「構成部分に不足があり……」も、こうしたエピソードや説明の不足という意味です。具体的に何が不足だったかは、詳細で話します。
一先ず、まとめます。
文章や台詞や背景資料の提示方法などは良かったですし、普通にプロ級だと思います。
表現方法の偏り、あと説明不足によるテーマ性の散漫、テーマを詰め切れていないので、いまいち伝わらない部分も見受けられました。
この辺りは、公募等での落選理由で、最もあるあるの理由ではあります。
私が落選している理由もこれですし、2次以下での落選理由は大体これです。
文章は達筆なので、中身の充実が課題に見えました。
余談で、公募の「二次以降が通らない!」って人へのアドバイスだと、そこから先は「商品のオリジナリティ」です。
本屋さんの平積みコーナーへ行けば分かりますが、パッと一目で「これどんな話だろう?」と引かれるアイディアが必ず入っている本ばかりです。しかもそれが、他の人と被っていないです。
タイトルと裏面あらすじだけで、「これは〇〇な話!」と明瞭に言えて、それが他の人と被っていない独創性を持っているアイディアです。
そういうアイディアが無いと、なかなか商品としてオリジナリティが出ないので、「BL好きには分かる」「異世界好きには分かる」という小さなコミュニティ(これを同人と呼ぶ)でしかお客を掴めません。それで良いならそれで良いですが、大衆(マス)を取りに行く所謂プロとしては不足なので、アイディア出しを脳の血管が千切れてしまうほど追求する必要があります。
尚、これはWEBでPV取る方法とは真逆なので、WEB系路線と一般とで分けて考えた方が良いです。
オリジナリティ溢れるアイディアが出れば、出版にはこぎ着けれると思います。
総評で既に長くなりましたが、もう少し細かく見て行きます。
【漆黒と遊泳 著:猫森千世 様】
https://estar.jp/novels/26054451
(全体の粗筋)
孤児院で虐待を受けていた少年ルネが、長寿命を持つヴァンパイア、オーギュストと出会い生きていく話。
ではまず1部から
1部
https://estar.jp/novels/26054451/viewer?page=1
まず良いところで、とてもコストの掛った良い内容でした。「コスト」は、私の造語ですが、この作品を書くのにどれ程の対価を支払ったのか? です。多くの場合は時間や資料集めや構成の吟味や推敲など……まぁ、時間ですね(笑) これをどれほど費やしたかです。
特に文章が凄く練られていて、隅々にまで気を使っている様が見受けられました。気合の入れ込みが伝わってくる熱の入った文章でした。
後、とても時代背景の調査をされており、十八世紀フランスだと思いますが、細かい所まで表記されていて歴史が好きな人とかには刺さりそうですし、スタイルとしても良かったです。
実はこういう資料的な部分は賛否が分かれるところで、扱いも難しいところです。やり過ぎるとストーリーの邪魔になりますし、無さすぎると薄くなってしまうので、バランス感覚がシビアになります。
今作は、たぶん「ギリやりすぎ」だと思いますが、「ギリ」くらいなので個人的にはOK。というか、これくらいが好き。これ以上はやり過ぎになりそうなので、絶妙な塩梅でした。
かつてのフランス描写に関しては、きっと作者も好きでやっている部分が多いのだろうなーという感じがあり、生き生きとした筆運びがあって好感が持てました。
キャラクターは、オーギュストにテンプレ感がありました。
この点が、総評での「不足」部分になります。単に、主人公ルネとの絡みが少ないです。後に出てくるアンリなどの方が圧倒的に絡みが多いので、バランスが悪く感じました。
主人公のルネは、生き生きとした動きが見えたのでとても入り込めました。良いキャラだったと思います。
天才設定が必要だったかは不明です。引っ掛かりのある設定として有効活用されていなかったので、私には不要に感じました。
一つ重要な点、「冒頭」について、技術面での指摘です。
こちらも定番の指摘にはなりますが、より具体的に話します。
本作の冒頭ですが、初見はすっごく読み辛かったです。でも、この記事を書くのに読み返してみると、そうでもなかったです。(普通に読めました)
何が違うかと言うと、「既に私の頭の中にキャラクターができている」か否かの違いです。
本作ですが、冒頭にいきなり三人でてきます(しかも一人はモブ)。それがサラっと数行で語られて、すぐに別のエピソードに飛び、更に悪役が一人追加されます。時間軸もバラバラですし、背景もバラバラです。
おまけに、このエピソードには主人公共感を得る為の「不幸話」も含まれます。
作品テーマになるエピソード、作品背景になるエピソード、作品フックとなる不幸話が怒涛に数ページの間で詰め込まれます。
こういう詰め方をするのならば、構成をもっともっとシビアに考えた方が良いです。冒頭でいきなり読者負担が大きくなるので、購買意欲が薄れる可能性もあります。
冒頭で色々と書かれているのですが、もっとも大切なモノが抜けています。
それが、(★★★超重要)「主人公の台詞」です。
台詞が皆無、ほんの一文程度で、他は神視点で一気に説明されていきます。
これ、凄く読み辛いです。「スターウォーズ」のオープニングロールで「遠い昔 はるか彼方の銀河系で……」って出てくるアレが凄く読み辛いのとほぼ同じ理由です。
キャラクターが立つまでの間は、何をどう語られようが頭に入って来ないです。
一応、小説公募のセオリーで
「冒頭5行以内に主人公に喋らせる」
というものがあります。
あと、ラジオドラマ(朗読小説)とかだと
「最初の台詞は、必ず主人公から」
というのもあります。
兎に角、主人公の喋り出しは最速! かつ、最重要! というのが、セオリーです。
あくまでセオリーなので崩しても構わないのですが、セオリーとなっているには意味があるので、崩すメリットはほぼ無いと思われます。
特に、キャラクター立ての一番は「台詞を沢山喋らせる」なので、早々に喋って動かして読者にキャラクターを想像させるのが先決ですね。
万字ではほぼ毎回言っていますが、
「誰と誰が何をするのか」
これが説明されない内は、物語は始まりません。
背景説明よりも何よりも、キャラクター立てが最優先です。
読者が簡単にルネを想像できるようになるまで、まずは喋らせてください。(あと、ルネが男性なのかも冒頭ではピンときませんでした。「たぶん猫森さんだとBLだから……と、私がメタ解釈して脳内補足しました。勿論、一般の人だと「?」がでるはずです)
因みに、主人公の不幸話を冒頭に入れたのは良かったです。これもキャラ立ての一つで、冒頭に必須項目なのでOK。
細かくツッコムなら、冒頭のオーギュストが女性を抱いているシーンがもっと後で良いです。これがリンクしてルネが孤児院で強姦されていた頃の自分と重なる……という感じでしょうか? キャラクターがついていない段階でいきなりやられてもイメージが追い付きません。
まず、再三ですが、ルネに喋らせて動かす方が先決。
やや時間(ページ数)はかかりますが、冒頭の導入も含めた重要なキャラ立てなので、腰を据えて書いても良いと思いました。
因みに、「冒頭5行以内に主人公の台詞が無いと落選」というのは、けっこう有名な下読み(公募)あるあるなので、気にしてみて下さい。
ちょっと長くなりましたが、凄く重要な部分なので書かせて頂きました。
あと、おそらく猫森さんが好きな構成なのでしょうが、「初めに不思議(読者が知らない新情報)が起きて、それを後のページで説明していく形」がこの後の章立てでも多数でてきます。この書き方、読み手のストレスになるので一作で一度か多くて二度くらいで良い気がします……。
これも演出の一つなので、何度もやられると飽きちゃいますので色々な冒頭の入り方を試してみて下さい。
エピソードの内容としては、舞踏会の話は煌びやかな社交界の表現ができていて面白かったです。
マリー・アンヌの話もフランス貴族の様子が描かれていて良かったです。
反面、「ヴァンピール=長寿命」というテーマ表現の不足、つまり、マリー・アンヌの作品テーマの中での存在意義の説明が不足しています。
こういう人間ドラマ部分が不足してくると、読者はテンプレで想像して補うようなるので、オリジナリティが不足に見えます。
個人的な見解ですと、「トワイライト」以降、何度この設定を見てきたか……という感じだったので、ヴァンパイアは別のテーマ性があっても良いのかなーと思いました。
アンリはキャラクターとして良かったです。本作で一番良いです。理由は、登場回数が多いのと、あまりテーマが乗ってないからですね。むしろテーマ性を持たずに自由に動くのがアンリのテーマなので、一番納得して読めるので、生き生きと動いて見えました。
只、一部はこの二人の登場回になっていますが、その前に「オーギュストのキャラ立て」をちゃんと枚数を割いてやった方が良いです。
舞踏会の「狩る」とか、「未亡人しか狙わない」とか、ちゃんと掘っておかないといけない部分が全く手つかずだったので、なぜメインキャラの前にサブキャラの絡みを始めてしまうのだろう? というモヤモヤがありました。
では、二部。
https://estar.jp/novels/26054451/viewer?page=65
一部で話し過ぎたので、簡潔に行きます。
フランスの学校の風景、制度などがしっかり調べられていて世界観が良く作られていました。
生徒の虐めに抗う姿勢も良かったです。
でも、あくまで私ならですが、この学校話は全カットします。
内容がかなりテンプレで、かつ院長に強姦されたほどのインパクトも無い、かつ、一部で言っていた「不足」が多々あるので、そっちにページを割かないといけない状況となると、この話は私なら番外編かな? と。(ページに余裕があれば良いのですが)
当時のフランスの学校の説明がしたいだけのエピソードに見えました。
アンリとの旅行も序盤から生き生きと動いていましたし、アンリが色々な役割を持たされている割に飄々とした感じがあって器の大きな良いキャラでした。
只、エピソードのテーマ性が緩く、「ここは、次の章でオーギュストが人生を語る切っ掛けとなった元凶となる話だ!」「ここは、この物語自体のオチの切っ掛けだ!」という重要な話に見えなかったです。
このエピソードが作品全体のオチに直結する切っ掛けだったので、もっと明確にできるアイディアを出して欲しかったです。この着眼点自体は良かったのに、だいぶ勿体なかったです。
オーギュストの過去も淡々と口述されていくスタイルでしたが、風景が浮かんでくる描写で良かったです。このエピソード自体は良かったです。
余談で述べると、こういう主人公クラスのキャラの過去の説明が「口述」というのは、演出的に駄目が出る可能性はあります。
昨今の「原作、脚本問題」でよくあるのですが、口述は画にならないので映像化するとほぼ変えられてしまいます。
「実は昔……」で、もう過去に飛んで、若いオーギュストが出てきて、テロップ「〇〇年」とかになり、語り部調は(演出的に)緩慢なので、そこで原作者意図はカットして終わらせてしまう形になります。
まぁ、小説だとありです。が、多様はおススメしません。
三部
https://estar.jp/novels/26054451/viewer?page=126
オーギュストの過去が口述だったのは良いとして、マリー=アンヌも回想を口述というのが気になりました。
短時間で二度、同じ様な構成だと少々刺激が不足します。
後、これは全体的に言える&前回読ませて頂いた短編でも同じ事を感じたのですが、モノローグや会話でストーリーを書くのが好みなのだろうなーと感じます。
只、ちょっと回数が多すぎます。
あと、短い言葉での説明がいまいちピンと来ないものが多かったのも三部です。
「ヴァンパイア=血を吸う=化物」という固定概念を前提にしているようでしたが、本作では「ヴァンパイアに血を吸われても眷属にならない」ようなので、こちらとしては「なぜ、そこだけテンプレのヴァンパイアとズレているのか?」が、不明でした。
オーギュストが愛人の血を吸わなくなった理由も、私には良く分かりませんでした。
ルネが拾って来た子供達に、彼等にはちゃんと自分の名前があるのに、二人に改名させるのも理由が分かりませんでした。
こういうところで「?」が付くと一気にブレーキがかかるので、ちゃんと説明する方が良いです。
四部
https://estar.jp/novels/26054451/viewer?page=204
オーギュストが潜んだ場所がなぜ地下だったのか分かりませんでした。作品テーマと関係のない「オペラ座の怪人」に無理矢理合わせたように見えたので、すっきりしなかったです。
前述しましたが、ヴァンパイアが朝日で消滅する等も、一度どこかでそういうエピソードを挟んだ方が良いです。固定概念が無い人には、なぜ消えるのが不明ですし、(★★重要)そもそもテンプレの利用だっとしてもちゃんと説明した方が良いです。
この辺りが「異世界=RPG」みたいに記号化しているWEB小説と、一般公募の大きな違いです。ヴァンパイアの設定は「今作ではこういう設定だよ」と示した方が良いです。
因みに、「日の光で消滅(自殺)」ができるのであれば、「長く生きている苦しみ」という部分で矛盾が生じてくる(死ねないから苦しい、と、自殺できるは矛盾する)ので、これを切り返す理由のエピソードも必須になります。
なぜ、最後が歓びの歌だったのかも分かりませんでした。
以上、細かくツッコミましたが、おそらく、ほぼ確定直しになりそうな部分を上げさせて頂きました。
書いてある部分は概ね良質ですが、書いていない部分が多すぎる為、矛盾や疑問点が目立ちました。
こういう説明って、自身が想定しているよりも、かなり多めに必要です。
とはいえ、こんなの全部を追加するほど紙面に余裕がない! となるはずです。私も毎回なります。歴史や時代物は、ほぼ確実になります。
この時に切るのは、大抵、「時代背景の説明」となります。色々と調べたので是が非にでも書きたいのですが……、こういうのはオマケに過ぎないのでカットする事の方が圧倒的に多いです。
時代説明をカットしたくないのならば、ストーリーをしっかり説明できるウルトラC級のアイディアを出す必要があります。
どうするかは作者次第ですが、取捨選択や厳選が必須になってくるので、「なくなくカットする部分」と「いやいや追加する部分」を資料集めの比じゃないくらいにやる必要がでてきます。
めっちゃ長くなりましたが、まとめます。
書いてある部分としては面白かったです。文章や表現も良かったです。
只、資料集めなどの拘りが強い割に、ストーリー部分への詰めが甘いので、一度プロットで見直す作業をしてみては如何でしょうか?
まだまだ推敲段階で、ここから練り上げるのが本当にシンドイのですが、その手前で終わっている印象があります。この先の表現を捻り出すのが本当にシンドイので再考はおまかせしますが、やれることは沢山ありそうですね。
因みに、私はこの段階くらいをプロットで書いて、その後放置しているものが大半(9割はここでボツ)です。
作業工程的にはちょうど半分くらいなので、一度、色々と検討してみて、それでも書きたいかどうかを自問自答するのはアリだと思います。
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