「マジ万字企画 【 謎 】編 書評③」

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「マジ万字企画 【 謎 】編 書評③」

【③】『(うた)に咲く春』著:樫村 雨 様  https://estar.jp/novels/25617491  前回に引き続きご参加頂きました、樫村様作品です。  本作は短編ですが、一ページ目から巻末までずっと可愛いです。  特に今回の主人公には「設定上の苦難」という強めの苦境が備わっており、これをどう捉えて、如何に描写して、どこまで突っ込むのかに「作家性」が現れてくるのですが、ファンタジックに柔らかく展開されるあたりが「樫村作品」の色合いといえます。  柔らかい表現とクセの無い文章で、作品構造も研鑽されているので、滑らかに読めてしまうのも「可愛さ」「柔らかさ」を増長させる一因でしょう。    サラっと内容です。  その街に、桜は咲いていない。もう三年も……。  主人公の詩桜(しおう)は、学校卒業を控えた前日、桜の枝に蕾が芽生えているのを発見する。空を見上げると、雲の切れ間に銀色の鱗が霞んで過る。  不穏に苛まれながら帰宅するも、土砂降りの雨に見舞われた。その最中、好きな男子から傘を渡された。  この雨は、直に川を氾濫させて人を飲み込むという。  詩桜は、ある決心をした。  八千文字以下の短編ですので、この先は読んでみて下さい。この先はオチなので。 「謎」の出し方にも幾つかパターンがありますが、大きく分ければ、 「冒頭に出す」 「プロットポイントで出す」 「最後に出す」 「触れない」  この四択かと思われます。  大多数が「プロットポイントで出す」になるはずです。プロットポイントとは、「起承転結」「三幕」の、章立ての最後「引き」のポイントです。三幕の場合、二部の中間で作る事もあります。(全体の折り返しポイント) 「冒頭に出す」の典型例がやはり推理物。もしくはSF。謎がないとそもそも始まらない、舞台装置が無いとそもそも始まらない、これ系統の作品群では小出しにせずにいきなり出してしまった方が、都合の良い場合があります。推理なんかは「起」でほぼ確実に出てきます。  因みに、「謎を出す」というのは「謎の構成を明確に提示する」という意味で、「何か不思議な事が起きてるなぁ」というチラ見せは、出しているうちには入りません。この作品が何の謎に向かって動いているのかを、ちゃんと読者に提示するという事です。  で、前述しました「二回出す」事で謎から謎へ、物語を進める役割と、締める役割を持たせます。(もしくはテーゼと進行に分けたり、様々に活用できます)  本作は「最後に出す」パターンです。  短編の場合これが採用されるケースは多く、「プロットポイントで二回出す」と情報過多になってしまう為、一発でこれを同時に行う為に「転」にて登場させます。  さてさて、書き手によって分かれる「感性ポイント」がここにあると、私は考えています。 「触れない」  と 「最後に出す」は、同じ構造で作る事が可能です。  行う作業は同じで、謎の片鱗を小出しにし、その中を人間ドラマで引っ張ります。伏線をたんまり仕込んでいるので、実際には謎の真相を見せなくても話は成立してしまうのです。  エヴァンゲリオンのヒット以降、見せない作品がやたら目立つようになっていますが、これは作風や読者層(ターゲット)と相談すべき事案でしょう。  本作も、謎の真相を明確に提示しなくても成立するので、私ならこちらを採用すると思います。  只、この場合、別の演出プランを要求される為、「可愛らしさ」に棘を刺す可能性がでてきます。  作風を乱さないのは「最後に出す」パターンであり、これが「可愛らしさ」を構成する一因となっています。  後、人物配置が計算され尽くしています。ストーリーと文量に合わせた必要最小限の人員で、なぜこの人物がここでこれを話すのか、全て説明ができます。(ストーリー要求だけではなく、市場要求も加味されています)    こうした要因の積み重ねで、作風が練り上げられています。  文章だけでも不足、構成だけでも不足、テーゼだけでも不足。全て積み上げてこそ「作風」!  容易に「可愛らしさ」は作られていません。  「可愛らしさ」「伝わりやすさ」もっと言えば「シーン毎の起伏の幅」。  そのような演出プランを綿密に検討されているのが樫村様の特徴だと(勝手に)思っていますので、「樫村さん読んだなぁ」という読後感がありました。  合理的に組み上げていくのも個性であり、「剛速球さん」達とは別の意味で印象に残ります。  すっごく読みやすいのですが、読みやすいにも「徹底した管理」が必要なのだ! と教唆されているようで背筋が伸びます。  凄く読みやすい! だけではなく、私が書きやすいので、また参加して頂けますと助かります! (笑)  指摘は……短編なので出し辛いのですが、「自然を愛する市民」の描写が欲しかったです。絶妙な一文をお願いします!  後、これはちょっと試して欲しいなぁという要望なのですが、禍々しいもの、直視したくないもの、をこの世界観に入れたらどうなるのか? これが読んでみたいと思いました。   ※次の【④】は、参加順ではなく読んだ順に変更しています。というのも、中島様作品、二十万字を超える長編でしたので、時間を取ってなるべく後半まで読みたいので最後に書かせて頂きます。ご了承下さいませ。 【④】『別嬪〜エス・大正ミステリィ〜』 著:紅屋 楓 様  https://estar.jp/novels/25524220  「万字」界のイチローこと、紅屋様作品です。  まだ連載UP中だというのに、スター連打するわ、「結まだっすか?」とコメントで急かすわ、質の悪い勧誘セールスで申し訳ない……とは思っているのですが、さすがに本作は書かせてもらわねば、私の情熱が収まりませんでした。  お姉様!  百合!  それ即ち……、  ザ・キングオブ・少女小説! (私の中では)  口癖のように飛び出るのですが、私は「マリア様がみてる(今野緒雪)」の熱狂的ファンでございます。「お姉様」「妹」と出てきて食いつかないはずも無く、しかもミステリィ! しかも大正浪漫! 書かない理由が一つもございません。  このまま書くと「百合論」になってしまいそうなので、一旦、落ち着きます。  はい。では、紅屋様全作品通しての「美」の研究について。  前回三作品共、海外を舞台にした「美青年」「美女」「美しい街」の登場する作品であり、対比される闇も排他的なものであり、所謂「映像的手法(モンタージュ)」での「美」の探求でした。  今作、タイトル通り「大正ロマン」による「美」の追求です。  文体が今までとは全く異なっているのですが、煌びやかな西洋的な美しさではなく、慎ましく清らで純潔風情漂う中での「美」を表現されていて、毎度毎度、新たな挑戦に向かっておられる姿に感服します。  文体が変わっているとはいえ、作家性の軸は全くブレません。  美の様々な側面を描こうとも、それは「美」であります。後、シーンカットの文量調整の感覚であったり、引きを使うポイントに個性化されたパターンがありますので、紅屋さんが書いていると一目で分かります。ブレない要因の一つでしょう。  書きたいものが定まっていて、その旗手を作者が務めている状況が、読者にとってどれほど安心できるのかを良く理解できます。    では内容です。  『起』  女学生である「ひなげし(主人公)」はある日、学友であり、校内きってのお嬢様「露路(つゆじ)様」のと遭遇してしまう。  露路様には、秘密があった。  露路様は、ある人物と入れ替わっていた。(プロットⅠ)  『承』  露路様に連れられ、主人公は秘密の事件を知ってしまう。  『転』  露路様に振り回され、心身共に事件の渦中に取り込まれた主人公(ひなげし)。そんな彼女を快く思わない者もいた。  「妹」である華美(はなみ)は、嫉妬と寂しさに苛まれ「お姉様(ひなげし)を私に返して」と懇願する。  愛する妹、露路様と板挟みとなった主人公は、ここで更に露路家の家系にまつわる「狂気」に遭遇してしまう。(プロットⅡ)   『結』  連載中。  現在ここまで。  プロット1だとか2だとか抽象的でしたので、箇条書きになってしまいましたが、これも含めて記載しました。この後が収束に向かう「結」になります。因みに、この『起』とか『承』という記載は本作のエピソードタイトルにも使用されていますので、ミステリィという事もあり「構成」を予め意識して読んでもらいたいという指標でしょうか。  はい。意識して読んだ方が良いです。  なぜか?  以前「演出プランを予測しておくと、それ以外の部位に目を向けられる」と記載しましたが、この点について述べせて頂きます。 (以下、深読み入ります)  世界観としても文体としても、少々特異なものを使用している事もあり、この環境下でこうなったのだから、こう心情変化する、という機微が見落とされる可能性があります。  ましてやミステリィの場合「謎」に視点をとられがちなので、こちらに注視されると、やはり見落とされる可能性があります。  世界観と謎を重視するのは作品としては当然なのですが、こちらのインパクトに気を取られ「この時代ならではの心情変化」が流されるのは避けたいところです。  特筆ポイントは、ここ。  他の世界観では書けない、日本のお嬢様達、純潔世界ならではの美しい心の揺れ。  謎よりも構成よりも、この作品の一番の魅力はここにあったと思います。  ここを見落とさない為の指標に、あえて構成の表示をされていたのかと推察しております。  どんな作品もそうですが、結局は「人」であり、これを書いてナンボです。一番面白いのもそこですし、「ならでは!」が書けた瞬間は作家冥利につきますし、その時のドヤ顔を想像しながら読むのも読者側の面白味の一つです(性格悪くでスイマセン)  一見して目を惹くのは文体や世界観ですが、その中でこそ輝く薔薇がある事を見落とすのは、読書体験としては大損です。  大正ロマン、百合、お姉様! サスペンス、ホラー、ミステリィと、読者層を問わない様々な仕掛けが施されていますが、最上級のダイヤモンドはこの心情変化ですので、じっくりと味わって頂ければと存じます。  指摘は特に無いです。  いや、一応。  内面重視で書かれていたので、特に気にならなかったですし、これ以上情報を増やしてもどうか? というのもあるのですが、「お姉様」「妹」のシーンがもう少し欲しかったです。  注)私の趣味が……ではなく。  主人公と妹の外観的な描写が少ないので、映像が浮かび辛いです。単に言葉で語られても流れてしまうので、1シーンあっても良かったかなと思いました。  正直、他の作者様ならこの指摘はしませんが、紅屋さんはこの辺りに注力されている方ですので、敢えて……。  んん……、でも今作はそういうスタンスじゃないしな……。とも思うのですが。  はっ!  『まとめ』を忘れていました! なんか今回は締まりが悪いなぁ、と思っていたのですが。これです。 『まとめ』  今回「樫村様」と「紅屋様」を同時掲載したのも、理由があります。(二十万字の長編が間にあった、というのも事実ですが)  どこかでこの読書方法を提示したかったのです。  「根本」が似ている作家さんを読み比べると、どちらの作家様もより魅力的に見えます。  「根本」とは、例えば「修正・推敲する場合」どこから着手するのか、を考えると分かりやすくて、こちら両作家様共、「構成、世界観的に必要なものと不要なものはどこか」で描写の出し入れをされると思います。  逆に、前回ご紹介の西乃鹿様、鷹取様、りふる様、蒼井様などは、細かな修正よりも作品ごと書き換える、というかバンバン新作書いた方が成果は大きいと思います。(某四名、名指ししちゃいました)    根本が似ていると、より顕著にこの作家さんの「どこが」他の方と違うのかを認識できて、とても有意義な読み込みができます。  私もこの企画をするまで、詳細に作家読みをする事が無かったので、非常に参考になっています。  これを伝えたくて、お二方を同時掲載させて頂きいた次第であります。 (④へ)
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