「マジ万字企画 【BL】編 書評②」

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「マジ万字企画 【BL】編 書評②」

 後半2作品。①の続きです。 【④】 『ガトーショコラより甘いキス』 著:陽萌奈 様  https://estar.jp/novels/25599910  所謂「IF設定」での「坂本龍馬×陸奥陽之助(宗光)」。二人が現代社会の「社長×OL」となった場合のラブストーリー。  何より目を引いたのが、文章の巧みさ。  過不足ない文量で、短文にも関わらず確実に読者へビジョンを与える実力。どうしても書きすぎてしまい、その情報整理でヒーヒー言ってしまうのがクリエイターというものですが、それをあざ笑うかの如く、的確な言い回し、短文での誘導ができるのは、実力者に他なりません。  内容もコンパクトで、短編の「外伝」一場面としても適正な内容量ですし、シーン毎の見せ場もきっりち構成されていて、ここから入った読者へ「本編も読んでみたい」と思わせる、芳醇な作品に仕上げられています。  台詞にも拘りが随所にみられ、龍馬の土佐弁も不自然なく、またユニークに富んだ使い回しで、ほぼ完璧。  これは凄いなぁ……と、WEBページに戻り、そこで自己紹介文を発見しました。 「高校生です」 「え! マジで!?」  正直、驚愕しました。  ※私も高校生時分には(小説ではないですが)脚本を書いていて、同じく坂本龍馬の登場する時代物を書きましたが、足元にも及びません。如何せん、土佐弁が難しすぎて標準語にしましたから(笑)。  高校生でこれが書けたら、将来有望すぎます。  是非、このまま活動を続けて行って欲しいです。  高校生という点を踏まえるのならば「100点」なのですが、もうワンランク上を目指して頂きたいので、敢えて強めにご指摘します。(おそらく、気付いている事かとは思いますが)  まず、「IF設定」のプラスマイナスです。既存のキャラクター、今回で言えば「坂本龍馬」などの周知キャラクターは、背景描写も無くそのまま利用できるメリットがあります。  が、しかし、読者に周知されている以上、この既存イメージからの脱却が困難です。陸奥宗光も同様で、彼の場合は例の写真を思い浮かべる人が多く、その人物が女装しているという面白さはあるのですが、これはあくまで一次的な面白さです。  この既存キャラクターとのバランスを考え、その上で個性を出すのは、存外ハードルが高くなります。  全く同じストーリー、設定で書いても「この人にしか絶対に書けない描写」が見えてくると、より立体感のある作品に仕上がると思いますし、実際にはこれが作家の名刺になるはずです。  上手いけど顔の見えない作家にはなって欲しくないなぁ、というのが個人的な願望です。 『まとめ』  偉そうに書きましたが、期待の現れです。ぶっちゃけ、WEBからの書籍化を目指すのであれば「上手い人」の方が足は早いと思いますが、これは宝くじ屋に走っているのと同じですし、人生的には「個性ある作家」を目指した方が充実すると思います。  また別のオリジナル作品も読んでみたいです。  応援してます! 【⑤】 『警察の犬は雨天がお好き(長編)』  著:那月:「警察の犬は雨天がお好き」   https://estar.jp/novels/25590146  刑事と『犬』と呼ばれた少年の物語。  ミステリィ仕立ての構成で、冒頭に起きた事件から物語が紐解かれていきます。  この冒頭が圧巻で、不可思議な連続犯罪である上に、犯人の異常性、何かしらの目的意識が内蔵されていて、そこに謎の少年まで登場する。  見せ方としても長くもなく短くもなく、導入の事件としては完璧で、「この事件を起点に物語が展開されるのだろう」と予測させ、期待感もハンパなく、次のページを捲らせる一件としては、素晴らしい冒頭でした。  文章も達筆で、読み辛い、分からない、という点が無く、意識的に「そして」などの接続詞回避も成されていて、非常に読みやすかったです。 「ミナギ」も躍動していて可愛らしく、時折挟まれる残忍性も、「犬」という設定を加味された従順な行動なのだと伝わり、キャラクターとして映えていました。 (全く余談ですが、やっぱり少年の方が力を入れやすいのでしょうか? 私も少女の方が力を入れやすいのです、なぜか……)  構成もしっかり練られていて、きっかり半分の章で展開されます。これもハリウッド式で、(詳細は「シド・フィールド」関連を参照して下さい)、冒頭にアクション(第一要素)、折り返しで展開(第二要素発生)、結末への収束という三幕構成かと思われます。  十万字クラスの長編で登場人物を二人に限定し、尚且つ三部構成という事で、「この二人を隅々まで書き尽くしてやる!」という熱意を感じます。ガチですね。  時間的にそこまでしか読めませんでしたが、サブプロット用のキャラクターも配置されていたので、きっと後に絡んでくるでしょう。そう予感させてもらえるだけの推敲が成されていると、確信できました。  ご指摘ですが、これについては「この物語」というより、についてです。  率直に、一部は長いと感じました。全行程を「ミナギ」の為に使用されているのですが、これだけの文量を使ってしまうと、せっかく素晴らしい冒頭があったのに「ミステリィ」要素が薄れてしまいます。  おそらく、この点は理解されていて、できるだけ早く進めないと……という事で、主人公による「解説」で少年の心情がまとめて説明されてしまいます。  この点が残念で、心情の変化はできれば行動で見たいのです……、が、これをやってしまうと一部だけで十万字行ってしまうのではないか? という懊悩にぶち当たります。(現在、全く同じ現象にぶち当たっているので、共感しかないです)。  そうなると、インパクトのあるワンシーンを入れてその他を排除する方法論になるのですが、こうしたアメリカ式合理性は如何なものかとも思うのです。(市場に対してです)  「ミナギ」に、タピオカ飲ませたいでしょ!   掃除させて、飯食わせたいでしょ!  でもこれ、ハリウッド式に脳改造された我々一般読者には、テンポロスに見えるのです……。フランス映画なんかは全力にこれに対抗しているので、この一部だけで結論に行かず終わったりもするのですが、残念ながら忙しい日本人はアメリカ式です。  この流れ、どうにかならないかなぁ……、これだけは外したくないってシーン一杯あるのになぁ……、とグチグチ愚痴を零して読んでしまいました。(市場に対してです)  私自身は楽しく読ませて頂きましたが、「書籍化」とかなるとガッツリ改稿要請されるのだろうーなぁ、などと思いました。    後、これは普通に指摘ですが、警察の内部事情はもう少し調査が必要です。主人公は巡査部長(せいぜい警部)でも十分だったと思います。 『まとめ』  文章、構成、キャラクター造形共に申し分なく、少年の愛らしさは十分に伝わりました。後、書きそびれましたが、濡れ場の描写が秀逸でした。(その前辺りに主人公の行動動機、行為中に心情変化が差し込めるかと)  色々と書いてしまいましたが、商業誌しかなかった時代に比べ、随分と好き放題書ける時代だとは思うので、WEB上ですし、書きたい事を書いてしまいましょう!(お互いに)  こうした作品を読めるのも、WEB小説の魅力だと思います。 (追記、修正)  こちら掲載の後、全部読みましたが、全然見当外れな事を書いてました。(二万字まで読んで感想……という企画でしたので、御容赦下さいませ)    途中書いた「ハリウッド型」ですが、私の脳がアメリカに完全汚染されていたようです。というか、完全に男性視点でした。  物語は「収束させなければならない」みたいな既成概念が根付いてしまっているのですが、こちら真逆でした。  「収束=結論」ではなく、「拡大=未来志向」でしたね。この物語をどう落とすのか? ではなく、「その先、どう幸せであればよいのか」を目指されていました。  「結論を出したがる男性」「話がしたい女性」  この違いを全く読み取れていませんでした。  いやあ……やっぱり最後まで読むべきですね、痛感しました。 【総括】  さて、当初は「一日一作品で」と言っておきながら、二日で読んでしまいました。  悉く全員が違う方向性で、個性的で、そこに触れていく感覚がたまらなく楽しかったです。流通している書籍は洗練されて整合性もありますが、こうした剥き出しの魂、磨かれる前の希少石の神秘性に、感動以外の何物もありません。  ちょっと興味本位で……という内心も一部にはあったのですが、瞬く間にのめり込んで行き、「物語」は無限に拡大されていくという、宇宙的な広がりを感じました。  WEBコミュニティならではの貴重な読書体験をさせて頂き、誠にありがとうございました。本当に楽しかったです。 「BL」は本当に未知の領域なので、第二弾で募集させて頂くかもしれません。その折には、またご参加頂けますと幸いです。  来週は「純文学」で募集させて頂く予定です。(29日土曜 20:00予定)  指摘は……たぶん百パーセント入りますが、それでもいいよ! というマジな作品をお待ちしております。                             
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