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「マジ万字企画 【 短編 】編 書評②」
【④】『独りじゃない』 著:りふる 様
https://estar.jp/novels/25350896
先日対談頂きました、りふる様作品です。
以前も(シリーズではない)短編を読ませて頂きましたが、長編の猛々しさとは打って変わり、短編は幻想的なストーリーになるのがりふるさんの一面ですね。
本作の内容は、事故で療養中の主人公が生と死の合間で世界を大観するという、非常に哲学的で、人間性の溢れる作品でした。
書き方としても詩的であり、主人公のボンヤリと思考する様にリアリティがありました。会話はいつも通りりふる様調なのですが、詩的な地の文とはっきりとした会話のコントラストが、生と死を彷彿とさせるフォルムに仕上がり、吸い込まれる緊張感がありました。
こうしたディテールも素晴らしかったのですが、特筆すべきは「死に際の人間視点」で書ききった点にあります。
「死に際人間視点」は、誰もが一度は思い立った事があるはずですが、おそらくまともに書けなかったはずです。役者の世界に「死に様が生き様(だったかな……)」という言葉がありますが、死に様の演技で、その役者さんがどの様な人生を送ってきたのか全て分かってしまいます。薄い演技しかできないのは、薄い人生しか送っていないからと言われますが、事実だと思います。
物語も、これを露わにします。どの様な人生を送ってきたのかが、一目でバレてしまいます。作者の性格も露わになります。よって、主人公視点で死を直視する書き方を(三人称で語るなどで)回避される作家さんが大多数かと思われます。
生死の境を一人称で書ききるとなると、確固たる死生観と人生論を持っていなければ、まずまともな作品になりません。
これを堂々たる筆圧、一縷のブレもなく書ききれるのは正にりふる様ならではであり、この力強さが誰にも真似できない最大の特徴ですね。
これは個人的な趣向ですが、詩的な文章になると途端に可愛くなり、会話とのメリハリが強調され、立体感が出ていて好きです。
テーマとしては文学で最も深く、誰もが思慮できる広大な内容で、単に病室だけの話ですが壮大な物語でした。
※具体的な内容の感想は紅屋さんが既にレビューされていて明確にまとまっていたので、そちらを参照下さい。(私の手抜きではありません)
指摘は難しいですね。というか短編で指摘は激ムズです。今回無しで! というのも、会話がややテンプレなのですが、これをズバっと言えてしまうのも持ち味ですし、私好みに変えるのならば、という編集作業的な指摘はやりたく無いもので……。
【⑤】『COSMOS ~百億年の歴史と一輪の秋桜~』 著:碧桜 詞帆 様
https://estar.jp/novels/25547123
初参加して頂きました、碧桜様作品です。
全然関係ない話ですが、「COSMOS」は例の合唱曲の事で、中学の頃にあの曲には「宇宙を感じる」と、読書感想文の宿題で提出し「書籍で出せ」と再提出をくらった思い出があります。詩で感想文書く方が難しいんだぜ? そう言って突き返してやりたい気分でした。
こうした主観があったので、最後に宇宙が出てきて「せやろ! みんな思ってるやん!」別に関西人では無いのに関西ノリしました。
さて内容です。
主人公、秋桜は、大きな悩みを抱える少女であった。ある日、秋桜の前に二人の精霊、桜花、守桜が訪れる。二人は主人公に差し迫る苦悩を解決し、夢を持つ少女へと蘇らせる。
哀愁のある文章でテンポが良く、霊である二人がとても良く立っていました。華美過剰な形容詞は多く無かったのですが、それでも二人、特に女性である桜花は美麗なのだろうと想像させ、会話のテンポも良くて、霊の二人の会話は楽しく拝読できました。
短文で美しさを表現できるのはセンスですね。私にはできません。
構成的にも、脇役の二人が楽し気に会話する事で、逆説的に主人公の悩みへ光を当てています。これ自体が作品目的で、最終的な終わり方にも帰結し、読後感は爽快なものとなっていました。
特に文量のバランスが良かったです。(こちら後述の指摘にも関係します)
道中、ファンタジー的に魔物が襲い掛かってくるのですが、序盤の魔物の描写をすっきりまとめる事で、最後に出てきた化物が引き立っていました。これは文量バランスで敵の強弱がついていた為で、この文量であればテーマである主人公の悩みを害する事もないので、ストーリーを追うにはとても良いバランスだったと思います。
特段して過不足の無い物語でとても楽しかったです。
んん、ここは同時に指摘ポイントになります。
過不足無い、は同時に「クセが無い」の弱点も内包してしまいます。文量バランスは良かったのですが、まとまり過ぎていて「ここを読んで欲しい!」という情熱が分かり辛く、主人公が苦難を抱えているので物語自体は進むのですが、印象値としては低くなるかもしれません。
ちょっとしつこくても深堀し「ここだけは!」というポイントが際立ってくると読者の印象にも残り、「こういう作家さんだ」という味になってくるのかな? と思いました。
これは所謂「技巧派」さん達の永遠の悩みですので、共に葛藤すべき課題ですね。
各シーンも纏まりが良くとても読みやすかったです! また読ませて下さい!
【⑥】『恋ノ狩人』著:亜衣藍 様
https://estar.jp/novels/25361979
探偵シリーズ! さすがに三度目の出会いともなれば、佐々木君の名前は覚えましたね。(所長も!)二人はいつになったらくっつくのか? 佐々木君のじれったい気持ちが分かります。
さて本作ですが、シリーズ物ならではの面白さがありました。
バーのママが意中の男性の情報取得を探偵に依頼するも、ママ側に事件が起こり探偵不要で事件が終わってしまう、というもの。
事件はどこにでもありますが、必ずしも他者の協力を要しない場合もありますよね。現実ではこちらの方が圧倒的に多いですが、探偵物という性質上、どうしても探偵が必要な事件にしなくてはいけません。
「なぜ態々、こんな入り組んだ現実にありもしない事件書いてんだろ」っとなる気持ちは重々に分かります(笑)
現実的にあり得るストーリーにすると読者との共感も得られる為、キャラクターがより親身に感じますので、シリーズ外伝としても有用です。
本作ストーリー上は何の進展もなく、調査対象の男性的には只時間が流れただけでしたが、その裏側では色々と心の揺らぎがあり、これを垣間見ている楽しみもファンに優越感を与えますので良い構成でした。
今回はトリックが、キャラ立てが、伏線の出し方が……という話ではないので、感想しか書けなさそうですが、ゲイバーのママって使いやすいなぁと思いました。女性的な異性へのアプローチもできますし、男性的なさっぱりとした別れ際もできますし、今作では書かれていませんでしたが、ゲイとして社会的抑圧に耐えている、もしくは経営者としての達観めいた言動も書けますし、この背景が現実的に既に備わっているので余計な説明は不要ですし、非常に万能なキャラクターだと思いました。
表紙で、いきなりゴリゴリのオジサンの絵が描かれていたのも良かったです。この人がネクタイの箱にピンク色の告白カードを詰めている場面を想像して、やはり面白いと思ってしまいました。(これも背景のなせる業ですね)
指摘とかする内容ではないので、強いて言えば、そろそろ佐々木君のラブシーンが欲しいです。(冗談です)
(③へ)
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