「マジ万字企画 【 短編 】編 書評④」

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「マジ万字企画 【 短編 】編 書評④」

【⑨】『刹那の逢瀬』 著:橘やよい 様  https://estar.jp/novels/25702369  毎回、私がヒヨってしまい保険コメントを打つ作品が現れます。  今回の「ヒヨリ作品」です。  まず今企画のテーマである「短編」の企画ミスから言い訳をさせて頂きますと、書評的に激ムズです。短編の性質として「起承転結」のどこかを省いても成立する場合が多く、特に起承あたりを省かれるとかなりキツイのですが、概ね、この辺りが省かれているのです。  ヒヨっていても仕様が無いので、論じて書してみます。  その前に内容。  記憶を読み取れる「妖怪」は、森に迷い込んできた少女と対話する。少女は家出をしてきたというのに、妖怪へ恐れる事もなく、強い精神を持った立派な女性であった。凛々しく美しい少女は自身を他の妖怪達から守る対価に、「最も美しいもの」を差し出した。彼女の死後何年もの月日を経ても未だ、妖怪は少女を想っていた。  そんな、御話。  構造的には「起」「転」は飛ばされています。会話文では出てきますが、実質ありません。散文的に妖怪と少女の邂逅が描かれています。  つまり、詩と同じです。  詩の構造も「私は今ここにいて、このような人生があり」など書きませんし、「こんな事があったからこれからはこうするんだ」なんて意志表明もしません。その辺りを背景に押し込んで「現状」と「余韻」だけを語ります。(全ての詩について言及していません)  こうした遠近法から作り出す幻想的な風景こそ、最大の魅力です。 (深読み感想入ります)  本作でもこれが遺憾なく発揮されていて、少女の家出の理由も短絡的で「妹に親を取られたから」と会話では言っていますが、きっと違います。気丈の強い少女ですから、そうした些細な融通が利かせられなかったのかもしれません。  そんな気位の高い少女の「最高に美しい物」を得た妖怪は満更でも無く、いや、その後何十年も少女を想い続けます。  ここで描かれる「妖怪」と「少女」という対比も幻想に輪をかけ、本来価値観の違う者同士が分かり合う事の無い現状世界への提言となっていて、テーゼとしても十分な役割を持っていました。人は少女を「死んだもの」と忘れてしまっているのでしょうが、妖怪は、その先もずっと少女を覚えている。そうした哀愁、余韻がどこまでも続いていくだろう……、そんな作品でした。 (感想終わり)  こうした作品でありがちな作風は、 「価値観の違う者同士を無理やり結合する作業で、そんな事ができるはずも無いという実感を現実世界にいる我々は感じながらも、道徳的に、倫理的に、これを認めざるを得ないような押しつけがましい作品」  が多いのですが、本作ではそれがありません。違うモノは違い、それは否定できないものであり、それでも尚、惹かれ合うものがあればそれは何か?   この回答は人によって様々に変わるものですが、「私はこうであって欲しい」という想いを乗せてもらえるのも、読者としては気持ちの良いものです。 明確に示していない点も、作者の柔らかさを感じます。  完成度がとても高く、作風としても安定感のある良作でした。  これはお願いですが、もう一作品、何かの企画の時あげて欲しいです。本作は主旨に「幻想的」がありましたので、作者の顔も隠す方向性でした。もう一つ読めばまた違った見え方ができると思いますので、是非、読ませて欲しいです。  指摘は無いです。文章もよく考えられていましたし、作風としても過不足ありません。強いて言えば「商業化」するにおいては過不足無しでは売れないので、「過」を多くするべきかと思います。それに意味があるのか無いのかは、「目的」によって分別する問題かと思われますので、私からは何も言えません。 【⑩】『彼と彼女の契約婚~こうして私は王妃になった~』 著:和倉眞吹 様  https://estar.jp/novels/25650980  初参加、和倉様作品です。  こちらも妄想コン作品です。短編ですので、妄想コン多いですね! 三次会ですね。  今作ですが、個人的に凄く好きな作品でした。時代が(たぶん)李氏朝鮮なのですが、中国史韓国史を扱う作品が好きなのです。個人的な趣味ですが。  内容だけサラっと。  ある日、主人公ソンアの元に、父が「国王の王妃選び(カンテク)」の一次審査に通ったと大はしゃぎで帰宅してくる。ソンアは父によって自身も知らぬうちに「王妃選び」に書類を出されていた。しかしソンアは大の男嫌い。  一生嫁になんか行かない!   と、街の商人達に憤懣を漏らす。そこで商団に出入りする美青年ナクチョンは、ソンアに提案する「最終試験で無茶苦茶して落選すれば、一生嫁に行けなくなるぞ」。(王妃選びへの参加にはリスクがあり、最終試験に参加した以上、国王以外とは結婚できなくなる。※側室扱い)  提案に乗りソンアは王妃選びに参戦するのだが……。 (ネタバレ無しで書けないので、ネタバレ。作品タイトルが既にネタバレだし……)  あれよあれよと合格して、ついに国王と対面する。国王は、まさかのナクチョンだった。  オチまで全部言ってしまいましたが、たぶん大丈夫です。読んでいれば皆さん分かる結末だとは思うので。  この作品の何が好きなのか、ご説明します。  まず作品の作り方です。これは巧妙な「IF設定」物になります。パッと思いつくのがまず「シンデレラストーリー」そして「暴れん坊将軍」。街に居た普通の青年が実は王様でした、というドンデン返しがあるのですが、この構造は暴れん坊将軍ですね!  というか、この「暴れん坊将軍」こそ「巧妙なIF設定」の代名詞です。あのストーリーは「もし徳川吉宗が大岡越前だったら」という着想から生まれています。  よくBLで使われる「A×B」という表現ですが、物語制作では定番中の定番ですね。本作もまさにそれで「シンデレラ×暴れん坊将軍」。実際にはこの二つではないでしょうが、こうした王道ストーリーの掛け合わせで別の作品を生み出すのは、非常に効果的です。  どちらか一つであれば「定番」で終わるところ、二つが書け合わさると「新作」になります。またどちらの定番も読者は知っているので、ストーリーに違和感を覚えません。  これは凄く重要だと思っています。  誰も知らない物語なんか、誰にも作れません。  それっぽく見せる事はできるかもしれませんが、それっぽいだけで構造を分析すれば大体同じです。(「シェイクスピアの36分類」「プロップの31の機能分類」もっとマニアックにいきたい方は「レヴィ・ストロース『神話の構造』」など参照)  であれば、結局は作家性だけが勝負所であり、王道に乗っかって好きなようにやってしまった方が良い場合も多々あるという分けです。  本作は、そのような気風だと勝手に解釈しています。正直、オチは見えていましたが、そんなものはどうでも良く、生き生きとキャラクターが会話し、また主人公の苦悩をしっかりと書き、最後ハッピーエンドになった瞬間にすっきりと物語を退散させる。その上で、ご自身の好きな? 李氏朝鮮時代を書き、美しい主人公も書ききり、この上なく爽快で読んでいても気分が良いのです。  話の面白さは作品構造が云々ではなく、結局、その作家さんが面白いかどうか? この一点だと思いますので、自由に生き生きと筆を走らせる作者様の作品は、それだけで高揚感があります。  そうした理屈を付与しながら、でもきっと、皆様清々しく読める作品だと思いますので、私も胸を張ってオススメできます。  とか言いながら、一応指摘入れておきます。キャラクターがテンプレート的なので、一癖入れてあげるとグッと魅力が増すと思います。  妄想コン的な話もすれば「選んだ理由」が、少し弱いです。王様のナレーション台詞ではなく、きっかけのエピソードがあれば尚良しです。(文字数の問題はありますが、そこはなんとかするしかないです) (⑤へ)
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