第124回 斯波家長と上杉憲顕が組むとエグさが加速する? 対する北畠顕家は力攻めを即決断! (初登場・桃井直常の輩感もかすむ!?スピード展開)

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第124回 斯波家長と上杉憲顕が組むとエグさが加速する? 対する北畠顕家は力攻めを即決断! (初登場・桃井直常の輩感もかすむ!?スピード展開)

 『逃げ上手の若君』第124話は、初登場キャラがあったりもしましたが、歴史に限らない知識からツッコミどころ満載の小ネタまで、バラエティーに富んだ回だったので、どのように紹介していこうか悩んでしまいました。  そこで、いつもとは趣向を変え、ひとつひとつ項目立てして紹介していこうかと思います。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ①上杉憲顕の毒樽の中身は硫化水素  「この硫黄の匂い 火山で発生する毒だ」  「きっと硫黄を持ちこめば可能なんだ そういう研究をしてそうな敵を知ってるだろ」  玄蕃は、師である父親から教わったことを起点に考えて、上杉憲顕の仕業であることを見抜きました。  昨年私は、突然YouTubeのフィードのにあがってきた登山の遭難事故の動画を立て続けに視聴したのですが、その中で「ゆっくりと学ぶ山の悲劇」さんの動画が一番良心的で知識も豊富な作りだったので、今でもチャンネル登録をして学ばせていただいています。  有毒な火山ガスによる事故としては、福島県の安達太良山の事故が有名のようです。興味のある方はご覧になってみてください。 【ゆっくり解説】見えない恐怖!初心者向けの安達太良山の闇【1997年 安達太良山遭難事故】 https://youtu.be/HecpxU1TJY8?si=emhMAUzd-QcqKG2A 【ゆっくり解説】なぜ"上半身裸"?"日本百名山"の安達太良山で一体何があったのか【2023年 安達太良山遭難事故】 https://youtu.be/5Y73I1Mtkn8?si=75n6taxEUTKOpjK6  動画のサムネイルにある「透明な殺人者」とはよく言ったと思いました。事故の原因となっている「硫化水素」は、私のこのシリーズでたびたび紹介している『Dr.STONE』で初期の頃に登場したかと記憶しています。  硫化水素の化学式は「H₂S」。硫黄の元素記号が「S」ですが、「H₂」の水素と結合させるには、「硫化鉄に希硫酸を作用させて製する」(ブリタニカ国際大百科事典)とあります。ーー憲顕、やるな。そして、家長と違った意味でヤバイ。  最初のページで兵たちが「なんか臭いな…」「誰か屁でもこいたか?」とあるように、硫化水素は腐った卵あるいは糞尿の匂いがします。また、無色であるのと「嗅覚がまひを起こすので、気づかないうちに意識障害や窒息になり」(新家庭の医学)とあるとおり、「突然皆が動けなくなり死ぬ者も出て」となってしまったのです。  なお、戦いにおいて水場を押さえるのは重要で、かつて楠木正成が千早城の給水路を断とうとした幕府軍の動きを読んでいて、返り討ちにしたというエピソードもあります(以下で、少しだけそのことに触れています)。 第17回 たいまつやハリボテ人形で戦いを制することなんてできるの? それらは『太平記』のヒーローも使う技です! https://estar.jp/novels/25773681/viewer?page=17  のっけから悲惨な場面が続くのですが、春日さんの「雑兵君」という呼びかけが個人的にはほっこりしました。「雑兵」に「君」を付ける、身分意識と人柄の良さが共存しているあたりが、顕家の側近らしいと思いました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ②裏がまるでない、どこまでも強気の顕家  「よかろう お望み通り攻めてやる!」  顕家の戦い方は、諏訪頼重とはまったく違うというのを実感します。もちろん、頼重にとって時行は主君でありましたが、現在、時行は顕家軍の重要ではない将の一人にすぎないという違いは大きいです(気づけば頭上にお茶を置かれて憮然とした時行の顔がかわいい)。  それにしても、顕家は自分が策を弄さないので、家長の策を裏の裏まで読んだりしていないというのを感じました。顕家には、頼重お得意の先読み・裏読み、そして神力による未来予知能力はないので、それでいいと思いつつ、まったく異なる戦い方に順応する時行や逃若党が優秀だと思いました。  「全て冷静に計算づくの家長が… 汝にだけは利根川で動揺を見せた」と、あっけなく策に引っかかってしまう顕家ですが、家長のような手合いには、顕家ばりの正攻法が効くのかもしれません。雫がやはり諏訪氏出身だなあと思わせる献策を示しましたが、現実としてそれができないということ、そして顕家軍が「力攻め」の選択しか残されないのを家長が狙っていることを、きちんと筋道を立てて結論付けているので、顕家の強さは決断の早さにもあるのだなという印象を抱きました。  そんなわけで、もしかしたら雫がすでに家長のエグい策に気づいていて、家長をはめての逆転劇があるのかな?なんて期待をしています。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ③長崎駿河四郎さんは、たぶんそう簡単に死にません…  第115話「逃若党1337」で初登場した「長崎駿河四郎」さんですが、私のこのシリーズで取り上げて紹介するのは初めてです。鈴木由美氏の『中先代の乱』には、「神田本『太平記』にみえる長崎駿河守時光の子であろう。」としています。  長崎氏はそうです、諏訪氏を押さえて「得宗被官」ナンバーワンの一族であり、第一話から登場している長崎円喜・高資親子(単行本第10巻巻末の「漫画ではモブだけど歴史上は重要人物ファイル」でもピックアップされています)は、読者の皆さんもおなじみかと思われます(笑)。  また、「北条泰時の被官関実忠の弟平盛綱が長崎を称したのにはじまる。」(世界大百科事典)とあります。昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、泰時の母・八重のもとで泰時と一緒に育った鶴丸が、平盛綱という名を最後に義時から与えられていましたね!  長崎氏という名乗りは、「伊豆の国田方郡長崎郷の地頭職を得たこと」に由来するそうです(『図説 鎌倉北条氏』)。  「子煩悩殺法」の真偽のほどは不明ですが、駿河四郎さんは、子供たちのためにも、時行のためにも、そう簡単には死にません!?(これ以上はネタバレになるので……。) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ④やっぱりヤンチャ系キャラだった桃井直常    時行をして、「容姿」「素行」「礼儀」「知能」「家柄」すべてにダメ出しされた桃井直常、リーゼントに金棒に髑髏マーク付きのセンスの悪い鎧兜で初登場!  ……ですが、桃井は古典『太平記』でもいかにもなヤンチャ系で、しかも私の家の近くに彼にゆかりのお寺があることを知って、そんなに嫌いではありません(身近になると、その人物や出来事に俄然興味が湧くのは、歴史あるあるですね)。実は、岩松経家が最初に登場した時、桃井かと思ったくらいで、松井先生もやはり彼をそういう系統のキャラでイメージして描いてくれているのはなんだか嬉しかったです。 第32回 時行の鎌倉での生活は質素だった…? 足利直義の脇を固めているのは一体誰…(予想などしてみる)?? https://estar.jp/novels/25773681/viewer?page=33                (岩松が桃井かなと勘違いした記事です。)    桃井は足利一門だそうです。とはいえ、詳しい人によれば、桃井家は一門の中でもペーペーということです。やっぱり亜也子は渡せないですね。  亜也子を嫁として「譲り受けてぇ!」と言う(「絶対幸せにするぜぇ!」の物言いがまた輩(ヤカラ)感丸出しでウケる)桃井に対して、一応主君として筋を通してリサーチをする(挙句、激怒して断る)時行が律義で好感が持てます(笑)。  今月4日に発売された単行本のおまけイラストで、時行が雫のお婿さん探しをしていましたが、本編と連動していて面白かったです。でも、鈍い上にお堅い主君ですから、それはそれで亜也子と雫の将来がかえって心配!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ⑤長尾に打っているそれは禁止薬物です!?  「ヂュウウウ」とぶっとい注射を力いっぱい長尾の腕に打ち込んでいる憲顕ですが、この筋肉の増強振りはステロイド系の薬物ではないでしょうか。2021年には、競技会期間中のスポーツ選手のステロイド注射投与は全面的に禁止されています。ーードーピング違反ですよ!?っと、言ったところで、長尾も憲顕もアスリートも医師でもないですし、南北朝時代は勝ってなんぼの世界ですので、意味ないですね(トホホ)。  ※ドーピング…スポーツ選手が運動能力を高めるため、筋肉増強剤・興奮剤・覚醒剤・鎮静剤など薬物を使用する不正行為。  もちろん、ステロイドはアレルギー疾患や皮膚炎症に有効な薬剤というのが大前提としてあるのですが、筋肉増強目的で過剰投与すると、凶暴性が増したりといった恐ろしい副作用が生じ、死亡に至るケールもあるということです。……ということは、長尾のあの身体は本人にとってもヤバイですね。倫理もへったくれもないところで、家長が「対北条の秘密兵器」とする怪しげな箱の中身も、節操のないものが入っていそうな予感がしています。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー   ⑥最後におまけ三連発  「解説を読みましたか? すごい!」  「次は私の趣味を見てください!」  「解説上手の若君」の結城宗広の使い方が上手すぎる。ジャンプ編集部の方に座布団一枚! ***********************************  「デビュー以来三連載連続のアニメ化は…ジャンプ史上初である」   単行本12巻にありました。松井先生、本当におめでとうございます! 前二作は納得ですが、実在した歴史上の人物を盛りだくさんに登場させて、しかも取り扱いがセンシティブな足利家の、さらには棟梁が〝怪物〟で描かれていてもアニメ化される実力は、本当にすごいです!! 何より、諏訪氏と北条氏の絆がもっと多くの人に知られるのは、諏訪一族の末裔としては感無量です。アニメは今から楽しみで仕方ありません。 ***********************************  これまでも何度か、『逃げ上手の若君』の展開と現実世界とが微妙にシンクロしているのですが(時行の御柱作戦の時に諏訪で御柱祭が実施されていたとか、覚海尼が登場した時に鈴木由美氏が伊豆で彼女に関する講演をしていたとか……枚挙にいとまありません)、今回もJRの駅で9月おすすめとして紹介されていたお寺が杉本寺でした。タイムリー過ぎですね!? 〔鈴木由美『中先代の乱』(中公新書)、野口実『図説 鎌倉北条氏』(戎光祥出版)を参照しています。〕24fea2d5-8845-440f-82a8-e4ce4b313fda4cf309f9-cd21-48e9-a8b9-54ef8bd6bbfe
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