夏休みはそう簡単には訪れない 3

5/7

242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ
「した」  と知己は短く答えた。 「はあ?」  単刀直入というか最小限の単語で答えられ、章達は妙に毒気を抜かれてしまった。 「強制補講した」 「うっそ。まだ後二日も残っているのに?!」 「敦と似たような理由だ」 「どういうこと?」  意味が分からずに教卓に詰め寄った二人に、知己は手にしていた出席簿と答案を置いて説明した。 「お前ら午前中1時間だけでいい強制補講を、午後も『暇だから』とか言って残ってたじゃないか。あれを換算すると強制補講分はもう終わっている。だからこれからお前らを出禁にしても俺は義務を果たしている。それこそ痛くもかゆくもない」 「マジか!」  俊也が咄嗟に叫んだ。 「ちなみにさっきしたテストは、補講終了認定試験だ」 「騙し討ちかよ?!」 「おめでとう。三人とも文句なしの及第点だ」 「きたねえ!」 「酷ぇ!」  章も一緒になって口々に罵っているが、そこにはもはや1mmの悪意はない。ただの不平であり不満だった。 「ひどくない。酷いのは、4月のことをいまだに謝っていないお前らだ」 「うー。どうしよ」  俊也は考え込んだが、急に章は目を輝かせ 「あ、そういえば僕は謝った! 確か、謝ったよ!」  4月のことを思い出し、ここぞとばかりに主張した。 「章。あのな……今の今まで忘れていたような謝罪には意味がないと思うが」 「でも、謝ったもん!」 「俺も思い出したが、いかにもその場しのぎで、しかも『俊也が嘘ついてごめんなさい』みたいな内容だったぞ。卿……坪根先生には謝ってないよな?」 「ん……。そういえば、そうだった気もする」 「そうだった気がするんじゃなくて、実際、そうだったんだよ」  まさか知己がこんなことを仕掛けてくるとは思わなかった。しかも何とか言い逃れようと思っていたが、どうにも打つ手がなくなって、二人は困ったようにやがて口を閉じた。  そこで、成り行きを見ていた敦が 「お前ら! こんな狡いことする教師に謝る必要なんてない! 俺は謝らないぞ!」  たまらず叫んだ。 「敦……」  驚いて知己は敦を見る。知己のやったことは、敦の最も嫌いなやり方だった。  後出しで勝ちを拾うような、狡猾な大人のやり方だと敦は思った。 「むかつく! ふざけんなよ! こんな汚い方法で丸め込むなんて! 俺は許さないからな!」 【章の謝罪は、こちら】 https://estar.jp/novels/25782664/viewer?page=27
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加