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「した」
と知己は短く答えた。
「はあ?」
単刀直入というか最小限の単語で答えられ、章達は妙に毒気を抜かれてしまった。
「強制補講した」
「うっそ。まだ後二日も残っているのに?!」
「敦と似たような理由だ」
「どういうこと?」
意味が分からずに教卓に詰め寄った二人に、知己は手にしていた出席簿と答案を置いて説明した。
「お前ら午前中1時間だけでいい強制補講を、午後も『暇だから』とか言って残ってたじゃないか。あれを換算すると強制補講分はもう終わっている。だからこれからお前らを出禁にしても俺は義務を果たしている。それこそ痛くもかゆくもない」
「マジか!」
俊也が咄嗟に叫んだ。
「ちなみにさっきしたテストは、補講終了認定試験だ」
「騙し討ちかよ?!」
「おめでとう。三人とも文句なしの及第点だ」
「きたねえ!」
「酷ぇ!」
章も一緒になって口々に罵っているが、そこにはもはや1mmの悪意はない。ただの不平であり不満だった。
「ひどくない。酷いのは、4月のことをいまだに謝っていないお前らだ」
「うー。どうしよ」
俊也は考え込んだが、急に章は目を輝かせ
「あ、そういえば僕は謝った! 確か、謝ったよ!」
4月のことを思い出し、ここぞとばかりに主張した。
「章。あのな……今の今まで忘れていたような謝罪には意味がないと思うが」
「でも、謝ったもん!」
「俺も思い出したが、いかにもその場しのぎで、しかも『俊也が嘘ついてごめんなさい』みたいな内容だったぞ。卿……坪根先生には謝ってないよな?」
「ん……。そういえば、そうだった気もする」
「そうだった気がするんじゃなくて、実際、そうだったんだよ」
まさか知己がこんなことを仕掛けてくるとは思わなかった。しかも何とか言い逃れようと思っていたが、どうにも打つ手がなくなって、二人は困ったようにやがて口を閉じた。
そこで、成り行きを見ていた敦が
「お前ら! こんな狡いことする教師に謝る必要なんてない! 俺は謝らないぞ!」
たまらず叫んだ。
「敦……」
驚いて知己は敦を見る。知己のやったことは、敦の最も嫌いなやり方だった。
後出しで勝ちを拾うような、狡猾な大人のやり方だと敦は思った。
「むかつく! ふざけんなよ! こんな汚い方法で丸め込むなんて! 俺は許さないからな!」
【章の謝罪は、こちら】
https://estar.jp/novels/25782664/viewer?page=27
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