夏休みが来た 6

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(さすが自由の国・アメリカ! 恋愛も自由!)  同僚・クロードが「外国には多いんですよ。日本、まだまだ」と言っていたのを思い出していた。 「……ねえ、同性同士の恋愛って何?」  先ほどまで「の」の字大量生産していた指は一変し、ガラスケースをツンっと強く突いた。  心なしか目が座っている気がする。 (いや。それ、俺に聞かないでくれないかな)  知己は冷汗が流れるのを感じていた。 「いい? 知己お兄さん。大体において生物は(オス)(メス)に分かれるものなのよ。初恋は成就しないものと言われるけど、私、二分の一の確率に外れて成就しなかったのよ。こんなのってないわ」  二分の一なら50%。たいした高確率だが、礼にしてみたらそれがアタリだと思ってただけに、ハズレたショックも大きかった。 「そもそも生き物なら子孫残して、なんぼでしょ? 同性愛の場合、何も生み出さないのよ。カタツムリのように雌雄同体なら全然いいだろうけど、人間の場合、そうはいかないからね。子孫繁栄もないなら、進化も、時代に適合した形態の変化もないのよ」  先ほどまでバラ色に頬を染め、照れくさそうにコイバナ話す乙女が一変、幽鬼の形相になって次々と吐き出すように罵る。  指先はツンツンとキツツキのような動きで古鏡を指さし、展示用強化ガラスのケースを割りかねない勢いで突いている。 「私の愛する造形美に反するわ!」  礼が吼えると同時に、知己には 「ほわたぁ!」  という謎の気合入った幻聴が聞こえた。  礼が一子相伝の必殺拳法の持ち主なら、きっとガラスケースは粉砕されていたであろう一撃を放ったからである。 「……あ、うん……。そ、だね」  もはや知己は曖昧な相槌しかできなかった。 「あ、あたた……。痛ぁ……」  残念ながら、彼女の細指の方が強化ガラスに負けて、突き指モドキになったようだ。 「大丈夫か?」  思わず聞けば、 「メンタルよりは」  指をかばいながら、礼が涙目で答えた。 (将之め! どこが「礼ちゃんは、グローバルな視野を持つ度量の広い()」なんだ? 俺達の関係、礼ちゃんにとっては正真正銘の地雷だ)  これは、古傷抉る。  確実に抉る。  絶対に抉る。  礼にとって将之は、唯一心を開いている家族(存在)なのに。  そうと知れれば、もう日本にも寄り付かなくなるかもしれない。 【挿絵を上げてみました。】知己、幻聴の礼はこちら。 https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=400
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