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「わかってたよ。付き合う時も、架純の気持ちが全部僕にあるわけじゃないって。それでも僕を選んでくれた架純に、後悔なんてさせないから」
告白された時と変わらない、真っ直ぐな瞳と言葉が突然向けられた。
「どうしたの、急に」
「うん、僕もわからない。でも急に言いたくなったんだ」
目が合って、どちらからともなくふふっと笑い合う。体の芯に、じんわりとあたたかいものが広がる。その温度は波紋を描く様に、体の隅々にまで行き渡る。悠馬さん越しに見える澄んだ空のように、心の靄が晴れる。ああ、私は、この人のことがちゃんと好きだ。そう今更ながら実感する。
「悠馬さん、今年は一緒にいろんなところに行こうね」
「なに、いつになく積極的なお誘いだね」
「いっぱい悠馬さんと思い出作りたいなって思って。とりあえず明日も明後日も仕事休みだから、ずっと一緒にいられるね」
私が手を握ると、悠馬さんはきょとんとした表情になった。それを見て、今日は会う約束をしていたけれど、明日以降の話は何もしていなかったと気づく。
「あ、ごめんなさい。私、自分が予定ないからって、悠馬さんの予定も聞かずに勝手に」
はずかしさに耳が熱くなる。手を離そうとしたのに、悠馬さんの強い力に逃れられなくなる。
「ほんっとずるいよ、架純は」
「え、なにが」
「いろいろ。とりあえずそんな風に、架純の生活の中に自然と僕がいることがすごく嬉しい」
悠馬さんの表情はいつになくわかり易く緩んでいて、なんだかとても、愛おしかった。
「今日も明日も明後日も、ずっと一緒にいよう。幸せな新年の始まりだ」
はにかむ悠馬さんに頷きながら、繋がった手をぎゅっと握り返す。強く強く、離れないように。
「じゃあとりあえず、帰りは小町通の方でも歩いてみますか」
「私就職してから観光とか全然してなくてよくわからないけど、悠馬さんが連れて行ってくれるところなら、どこでもついていきます」
音を立てて二羽の鳩が飛び立った。それを合図にするように、私達も歩き出す。
今年はきっと良い年になる。良い恋ができる。
私を包み込んでくれる、この人と一緒に。
− to the last story −
https://estar.jp/novels/25908324
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