1.空に歌う人

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1.空に歌う人

 その人は公園のベンチに座り、空を見上げていた。 青空でもなく、面白い形の雲が浮かんでいる訳でもない、ただどんよりと曇った空を。 空に向かって小さく唇を動かしながら……。  そして足元に何かが(まと)わり付くのに気付くと、大きな背中を屈め、子どものような笑顔を浮かべた。  屈めた背中の向こう ベンチの背もたれに、ギターケースが立て掛けられているのが見えた。  私は足を止める。 ここの公園も、植え込みの中までさっき探したのに……。 でも、やっと見つけた。 「ルナ!」  声をかけながら歩み寄る。  その人の足元には二匹の猫がいて、彼の差し出す手の平から何かを食べていた。 「え、ルナ?……」  彼はそう問いかけるように、私に目を向ける。  彼の座るベンチに、スナック菓子の袋が置いてあるのが目に入った。 「あ、あの……鳩じゃないんで、ポップコーンあげるのはちょっと……」 「えっ? あ、これポテチ……」 「尚更 良くないです。塩分と油分……」 「そうなの? ごめん。おい、ダメだってよ」  彼は素直にそう言った後、お菓子を乗せた手を引っ込め、腕に丸く白い両手を掛け、少し爪を立てて(すが)り付こうとする猫から逃れた。 ☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆ 本編と、続編『ブルーモーメントの奇跡』を繋げて、加筆修正した作品を2024年2月に書きました。 『猫とブルーモーメントの奇跡』 https://estar.jp/novels/26196642 ⬆よろしければ、こちらにお越し下さい。
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