仁矢田美弥さん 「三崎さん」

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仁矢田美弥さん 「三崎さん」

 『5分後に犯人に迫るラスト』『5分後にときめくラスト』に作品収録の実績のある仁矢田美弥さん。そんな仁矢田さんの以前の作品『三崎さん』を、今回レビューさせていただきます。実は、仁矢田さんは、恥ずかしいとのことで遠慮されていたのですが、今回無理にお願いしました。  「ひりひりするような苦い青春もの」との紹介文。そこに惹かれて読みはじめました。BL要素があるということでややびくびくしながら。  主人公・大輔は男相手の男娼をする大学生。その理由は、経済的に豊かでない境遇のなかで、学問をしたいという情熱。  ふと、考えさせられました。私の頃とは違って、今の学生は奨学金という巨額の「借金」を背負わされて社会に出ていくのだ、ということは社会問題にもなっています。  「仕事」の忙しさやある種の引け目のようなものを抱えた大輔の孤独がひしひしと伝わってきます。彼女はいるけれど、裕福な彼女は本当には自分を理解していないのではないか、そういう恐れもあるのではないかと感じます。他方、そんな彼女を傷つけたくなくて、自分の仕事をひた隠しにしする─。  タイトルになっている「三崎さん」は大輔に一目ぼれした「客」。しかし本当の愛のためにあえて「客」としてはふるまわず、むしろ大輔を新しい世界に導きます。一緒に舞台演劇を鑑賞する下北沢のシーンは印象的で、まさに「夢の街」にふさわしい設定。大輔は自分の〝透明な液体の底にある泥〟から救ってくれる人物として三崎さんを意識しはじめます。  最後のシーンでは、私の勝手なとらえ方ですが、三崎さんの大輔にとっての存在の意味が伝わることでしょう。 『三崎さん』 https://estar.jp/novels/25523558 ※ちなみに、仁矢田美弥さんの現在連載中の『ミサキ』は、ハードボイルドでありながら、この『三崎さん』との何らかの関連があるとのことでした。 併せてご紹介しておきます。 『ミサキ』 https://estar.jp/novels/25809736
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