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都会の片隅に佇むこのサナトリウムは、長い間放置され、施設は荒廃していた。空虚な治験室で、壁の剥落と黙示録的な静寂が支配する。
街の中でぽっかり無かったことになっているその建物にも暮らしている人はいる。
ここにしかいられない人がいる。
ベータの人間が過半数を占めているこの世界で、不良品として捨てられた人々。ベータしかいなかった家系で突然オメガの子供が生まれると大概は夏希のように施設に連れて来られる。母や父の事は何も覚えていない。知りたくて戸籍を辿ってみようと試みたが、自分から父母へ伸びるはずの枝はどこにも無かった。白い紙の上で自分だけがぽっかりと浮かぶのをみて心に湿度を感じた。
「ねぇ。大人になったら僕らはどうなっちゃうんだろうね。」
サナトリウムに住んでいる子供たちはいつもこのことを不安に思っている。オメガという人種がこのサナトリウムを出て外の世界を知る方法は現状、アルファの家系の誰かに選んで頂くこと以外はなく、ただ年々アルファの総数は減っているので望みは薄い。嵐が吹けば植物は花びらを落とす。それは雑草もバラも変わらないようだ。向こうにも向こうの事情があるらしい。ここで一生のんびりと朽ちるまで暮らせればいい。
「夏希。こちらへ来なさい。」
施設長の声色に違和感を覚える。窓の外を見ると雲が厚く立ちこめている。雷に備えて空気がじりじりとしていた。
「夏希。君の引き取り先が決まった。これが資料だから、明日までに全てを叩き混むように。外にはオメガの人間を狙っている人が沢山いる。引き取り先で粗相をして捨てられたらどうなるか……しっかり務めるんだよ。」
施設長は門出を祝うような明るい顔で、悲しそうな重い声色で夏希にそういった。
「はい。」
窓から見ていた景色を肌で感じることが出来る。それだけで後はどうでもいいとさえ思ってしまう。
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