第3話 菖蒲・6

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 恩師である平野知己は高校教師である。だが、当時生徒だった梅木敦となぜか女装対決することになった。  ある意味萌えを研究し緻密に勝算を企てる敦に対抗すべく、知己は同僚のクロードや卿子の協力を得て懸命に戦っていた。だが、敦の計算されつくした「あざと可愛さ」に押され、どんどん旗色は悪くなっていく。勝負に行き詰った末、知己は捨て身とも受け取れる狐耳装着で現われた。狐ダンスの曲がBGMとして流れ会場の皆がノリノリで踊る中、当の本人だけはその場に呆然と突っ立っている。そして集まる注目に耐えられずに困惑気味にようやく「……こん」とポーズをとると、会場を謎の興奮に包みこんだのだ。 (……何が幸いする(ツボだ)か、分からないものね)  と大奈が達観している中、そんな興奮の坩堝に叩き落とした本人は恥ずかしそうにガサガサと雑に歩いて退場したのを鮮明に思い出していた。 (……恥ずかしいなら、やらなきゃいいのに)  と思う反面 「きっと、あれも……負けられない戦いだったのね」  と、知己の内情を察した。 「狐ダンスなら踊れるし、チアの格好も可愛いし、私も狐耳をやっちゃおうかと思ったんだけど……それって単なる二番煎じじゃん」 「あんた……、2分前に『元担の格好見てヒントを得た』って言ってたわよ」 「ヒントにしただけだもん」 「……オマージュとパクリの違いね」  近藤大奈は「やれやれ」とため息を吐いた。 「それにまるっきりマネじゃ新鮮味ないでしょ? 門脇君も、狐耳見て嬉しそうにしてたし、きっとケモ耳は好きだと思うの。これなら門脇君も私にときめいてくれるんじゃないかと思うのよ」  と言うと美羽は「どうかな?」と華麗にターンを決めた。  美羽の身体に動きに合わせて、しっぽとケモ耳とミニスカートが揺れた。  推定Fカップをチューブトップになんとか納め、その上にスカートの裾と同じ長さの丈のジャケットを着て、アイドルのようなチェック柄のミニスカに重厚な厚底ブーツ。片足はニーハイのソックスを履いている。  相手が門脇でなければ、百コロくらいできそうな可愛いさである。 「参考までに聞きたいんだけど、今回そのキャラのコスプレに決めたのは? 門脇君が好きそうだから?」 「うん。菊池君が全力で勧めてきたからよ」 「……そう。後で菊池君を褒めておくわ」  近藤がそう言った直後、中庭の方から図書室棟のこの控室まで聞こえるどよめきが起こった。 【関連イラスト】「挿絵を上げてみました。」 https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=626 【関連P】「教育ノススメ。+」 https://estar.jp/novels/25782664/viewer?page=729
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