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(あ。やっぱ入れ過ぎたか)
思ったよりも増えてしまった。
水分を吸ったご飯の隙間から、所狭しと泡が吹き出す。なんだか、地獄の様相に思えて、門脇はしばし考えた。
「……大人ってのは『大人』ってだけで、プライドの高い生き物になりやがる。子供相手に言い負かされたら『負け』なんだ。特に教師はそうだ。スクールカーストのてっぺんにいるのが教師だと思っていやがる」
考えた後に門脇は、携帯に載っている写真と見比べ、それに合わせるように水を追加すると、適当に醤油と塩で味を付けた。
「格下の生徒相手に言い負かされたら下剋上が起こっちまう。教師としてやっていけねえ。安っちいプライドがあるから、絶対に謝らねえ。最後はお決まりのように、『次見つけたら許さないからな』って捨て台詞吐いてすごすごと逃げるくせに、次に俺を見かけても見ないフリをする。俺を見たら、注意しなきゃいけねえ。自分で言ったから、な。次とやらが生まねえよう努力してんだ。……しょうもねえ」
なんとか写真通りっぽくなった雑炊に、卵を二個割り入れた。
「だけど、知己先生はすぐに謝ったんだ。『地毛だったのか』って。『ごめん』って」
蓋をして火を止めると
「出汁は入れないのか?」
家永が聞いてきた。
「鶏肉から出汁が出るから要らねえ……と携帯に書いてある」
門脇は携帯をかざしてみせた。
「葱は?」
「安心しろ、ちゃんと買ってきてある」
今度は買って来たカット葱のパックを見せたら、
「切りたてではないのか?」
恨めしそうに家永が言った。
それで門脇が
「文句を言うなら、そこらの草をちぎって入れるぞ」
と脅すと、さすがの家永も(贅沢が過ぎたか?)と口を閉ざした。
「あれ? どこまで話したっけ?」
「平野が、すぐに謝る教師だったという所だ」
「そうだった。
ま、きっかけはそんな感じ。その後も、他の教師と違って見てみぬふりせずになんだかんだと構ってくれた知己先生は、俺にとって珍しい生き物みたいな存在だった」
(平野。珍獣扱いか)
家永は珍獣枠で考えた。
(オカピ、ハシビロコウ、カモノハシ、ウォンバット、パンダ……)
どれも可愛いが、いまいちしっくりこない。
(珍獣、珍獣……チェ・ジウ)
音が似ているだけだが、妙にしっくり来た。
【関連P】「教育ノススメ。」まで遡ります。
https://estar.jp/novels/24918145/viewer?page=230
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