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 読了させていただきました。  挙げる美点としてはまず、無駄が少ないということ。必要以下でも以上でも無い程よい文章で、際立った特徴や文体のにおいは有りませんが、続きを読ませるリズムの力は充分にありました。  次に、主人公たちの目的が明確なこと。失念されがちなことですが、これはとても重要なことです。地球のレプリカントの集落にたどり着くという目標がある。それがバトルにも探索にも成りうる自然な流れが上手いと思います。  あとは惜しい点の指摘になります。  1つには、心情を明確に説明しすぎた場面があること。例えばシエラがダッジを猟犬隊に引き渡そうとしていたことを謝る場面ですが、謝るまでに変化する心情は描写しないほうが(あるいは、台詞に簡潔に織り込むかしたほうが)良かったかもしれません。 (「全部を説明しなくてもいい」とはよく言われますが、何で全部説明しなくていいのかというと、「全部説明しなくても、繋がりは解る」からなんですよね。線と線の間の空白の中に、無いはずの線を見出だすみたいに、イメージの因果は近いもの同士で勝手に繋がってくれますから。)  もうひとつは根本的な点です。SF設定と生物・環境の哲学、それに「実際に動く物語」――要は、読んで見る舞台背景と、読んだ瞬間に動く文章です。この二つが、本作品の場合やや「竦みの関係」にあると感じました。  SF設定に関しては、もっと掘り下げてもいい中身を持っていますし、造形(視覚的世界観)や機構も詳細で良い感じもします。特に火星と地球の主観的な差異はもっと大きく書かれていいことのように僕は思います。  一方、人物のキャラクター性は暖かい目線で作られており、デフォルメ強めの感じですが、これが少々噛み合わない部分を持ちます。先に話した心情を書きすぎている点もあり、世界観の流動による哲学性の表れ、主人公の問い掛けなどを「柔らかく」してしまっています。  世界観設定およびそれに伴う問い掛けの深さと、キャラクター造形の暖かみは、個々別々であれば誉められる長所なのですが、本作品はお互いの鋭さを相殺していると思います。(ただ、この加減が好ましくないかと言われるとそうでもないので、難しいところですが。)  エブリスタ内では★5を受けても良い作品ですが、まだまだ延びしろを感じ、期待できることや、上記のような惜しい部分を含めて、★4とさせていただきます。
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このレビュー好きです。 何度も読み返しては自分の伸ばすべきところ、至らないところを考えさせられてます。 人物に関しては、ギリギリのところで“動く記号”にならない程度にデフォルメした暖かみのあるキャラクターを書いていきたいです。

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