【コメント】

ヒエラルキーに泳ぐ深海魚は夢を見る

SF小説を面白い、楽しいと思ったのはいつぶりだろう。レプリカント達はあまりにも純粋で、生きようとする姿は泥臭くも美しく、読んでいるうちに彼等の幸せを願いながら引き込まれていった。ストーリー展開はテンポよく、伏線も巧く組み立てられている。また、私のようにSF小説に慣れていない者にとっても、世界観や文明についての説明が簡潔でわかりやすい。この世界についてもっと知りたいと思わせる。椎名庇氏の言葉を借りるならば「SF設定に関しては、もっと掘り下げてもいい」と私も感じる。戦いの目的もはっきりとしており、生きる事とその重さを作者がどれほど大切にしているかが、これでもかこれでもかと叫びのように伝わってくる。喜び、哀しみ、暖かさ、冷たさ。それらを経た上で、読者を裏切らないラストのさわやかさと心地よさはこの上ない。欲を言うならば純粋すぎる。これはこの作品の良さでもあるのだが同時に作者の今後の可能性にもなっていると思う。レプリカント達の人物設定が純粋さ故に、感情表現や決断が予測しやすいものになりがちである。キップとシエラについてはレプリカント的な純粋さを貫くのであれば、そのコントラストとして他の人物の人間的な欲深さやエゴを掘り下げると物語には深みが更に生まれると思う。例えば、キップ達と違う生き方をしてきたユイには、シエラとは違う強かさや狡さがあっても、読者の心は離れずに彼女に共感し、魅力を感じるだろう。旅における存在意義も変わったものになるかもしれない。ダッジとネイルハートの違いも、作者の匙加減によってはより深みあるものになるだろう。エブリスタ内の長編としては文章、構成含めて良作である。心から「もっと評価されるべき」このタグを送りたい。作者の今後に大いに期待したいので★4つ。ドヴォルザークのユーモレスクを聞きながら

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