氷兎

外の物音が一切聞こえないこの閉めきった部屋の中に、カタカタと私がキーボードをたたく音だけが響き渡る。 「よしっ、できた!」 タンッとエンターキーを押して口角を上げた。画面にうつる登録完了の4文字にこれから始まる楽しい生活を想像し、わくわくしてしまう。 仮想世界 ピースライフ。 登録者数30万人を越える大型のアバターゲームだ。 「友達できるかなぁ・・・」 私は多少の不安を感じてぼそっと呟いた。その言葉の通り、私がこれに登録しようと思ったのは友達をつくりたかったからだ。 極度の人見知りで引っ込み思案。自分に全く自信がないから人の顔を見て話せない。そんな暗い性格のせいでなかなか友達ができず、今ではクラスで孤立してしまっている。 「でも・・・」 このゲームならそんな私のことを知らない人ばかりだ。だからきっと友達を作れる。それに実際に顔を合わせる訳じゃないから私のこの性格を隠すことだって出来るだろう。 「よし、頑張って友達を作るぞ!」 私はぐっと胸の前で手を握り、仮想世界にログインした。 「・・・えーっと、まずは紹介文を書くんだよね・・・?」 私は画面に表示してあるチュートリアルに従って操作していく。 この文によって人が私に興味を持ってくれるか決まるので結構重要だ。 が・・・、ここで問題発生。 「・・・何書けばいいの?」 ありのままを書いたら友達はできない。それは自覚している。 でもあまりにも嘘で塗り固めた好感度のいい文は絶対無理だ。 ずっと嘘をつき続けれるほど私は器用じゃない。
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悩んだ挙げ句、『初めまして、狂羅です。少し人見知りなので最初はちょっと反応が遅いかも知れません。ごめんなさい。でも申請は100%おkします。気軽に絡んでください』と打ち込んだ。 「・・・うん、まぁこれでいいか」 何か淡々としすぎているような気がするがしょうがない。これ以外の文が思い付かないのだから。 私が自分のボキャブラリーが思ったより乏しかったことに苦笑していると、画面左上のお知らせボタンが点滅し始めた。 表示される文字は友達申請が届いたというもの。 「早い・・・」 書いて数分で来たその申請に思わず声を上げる。 というかあんな紹介文で申請してくれるとは・・・。 私は苦笑しながらそのボタンを
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・・・えっとどんな反応すればいいの? 何これ??
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